■ ウイルス感染症の診断とは
ウイルス感染症の診断は、「ウイルスが存在するか」「どのウイルスか」「感染がいつ起こったか」を明らかにすることを目的とします。臨床症状だけでは特定が難しいため、検査による確認が重要です。
■ 主なウイルス検査法
1. 抗原検出法
ウイルスの構成成分(抗原)を直接検出する方法。
- 迅速抗原検査(イムノクロマト法)
→ インフルエンザ、RSウイルス、SARS-CoV-2などで使用。
→ 短時間で結果が出るが、感度はPCRより低い。
2. 遺伝子検出法(核酸増幅検査)
ウイルスの遺伝子(RNAやDNA)を検出する高感度法。
- RT-PCR法 / リアルタイムPCR法
→ 現在最も信頼性の高い検査法。COVID-19やHIVで標準。 - LAMP法・TMA法
→ PCRより簡便・迅速な代替法。現場検査にも利用される。
3. 抗体検査(血清学的検査)
ウイルス感染後に宿主が作る抗体(IgM, IgG)を検出。
- IgM抗体: 初期感染を示す。
- IgG抗体: 既感染または免疫獲得を示す。
ワクチン接種や感染歴の確認に用いられる。
4. ウイルス分離・培養
ウイルスを細胞培養系で増やして同定する古典的手法。
現在では主に研究目的や新興感染症の解析に用いられる。
■ 感染症診断の補助的検査
ウイルス感染症では、炎症や臓器障害の評価も重要です。
- CRP・白血球数: 炎症の指標
- 肝酵素・腎機能: 薬剤投与前の安全確認
- 画像診断(CT・MRI): 肺炎・脳炎などの合併症評価
■ ウイルス感染症の治療原則
ウイルス感染に対する治療は、原因療法と支持療法に大別されます。
■ 1. 抗ウイルス薬による原因療法
ウイルスの増殖過程を標的とした薬剤です。代表的な作用点と薬剤は以下の通りです。
| 作用段階 | 代表的薬剤 | 主な対象ウイルス |
|---|---|---|
| 侵入阻害 | マラビロク(CCR5阻害) | HIV |
| 複製阻害 | アシクロビル、ガンシクロビル | ヘルペス属 |
| 逆転写酵素阻害 | ジドブジン、テノホビル | HIV, HBV |
| プロテアーゼ阻害 | ロピナビル、グレカプレビル | HIV, HCV |
| RNAポリメラーゼ阻害 | レムデシビル、ソホスブビル | SARS-CoV-2, HCV |
| 放出阻害 | オセルタミビル(ノイラミニダーゼ阻害) | インフルエンザ |
これらの薬剤は特定のウイルスにのみ有効であり、細菌感染のような「広域抗ウイルス薬」は存在しません。
■ 2. 支持療法(対症療法)
ウイルスそのものを直接排除できない場合、宿主の生理機能を保つことが重要です。
- 解熱鎮痛薬: 発熱・頭痛・筋肉痛の緩和(例:アセトアミノフェン)
- 輸液: 脱水や循環動態の安定化
- 酸素投与・呼吸管理: 肺炎や呼吸不全への対応
- 免疫グロブリン療法: 重症感染や免疫不全時に有効
■ 3. 免疫療法・新規治療
近年は、宿主免疫を調整して感染を抑えるアプローチが注目されています。
- モノクローナル抗体療法: COVID-19やRSウイルス感染症で実用化
- 免疫チェックポイント制御: 慢性感染症治療の研究段階
- RNA干渉・CRISPRによる抗ウイルス戦略: 次世代治療として開発中
■ ワクチンによる予防
治療よりも重要なのが感染予防です。ワクチンは免疫記憶を形成し、発症や重症化を防ぎます。
- 生ワクチン: 麻疹、風疹、水痘など
- 不活化ワクチン: ポリオ、日本脳炎
- 組換え・mRNAワクチン: B型肝炎、COVID-19など
ワクチンの普及は公衆衛生上、最も効果的なウイルス対策とされています。
■ 診断と治療のまとめ
ウイルス感染症の診断と治療は、**「正確なウイルス同定」と「適切な時期の治療介入」**が鍵となります。
PCRや抗原検査の進歩により診断精度は大きく向上し、抗ウイルス薬やワクチン開発も急速に進展しています。
今後は、より**個別化された治療(precision medicine)**がウイルス学の臨床応用として期待されています。