【ウイルス学シリーズ 第6回】ウイルス感染症の診断と治療

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■ ウイルス感染症の診断とは

ウイルス感染症の診断は、「ウイルスが存在するか」「どのウイルスか」「感染がいつ起こったか」を明らかにすることを目的とします。臨床症状だけでは特定が難しいため、検査による確認が重要です。


■ 主なウイルス検査法

1. 抗原検出法

ウイルスの構成成分(抗原)を直接検出する方法。

  • 迅速抗原検査(イムノクロマト法)
    → インフルエンザ、RSウイルス、SARS-CoV-2などで使用。
    → 短時間で結果が出るが、感度はPCRより低い。
2. 遺伝子検出法(核酸増幅検査)

ウイルスの遺伝子(RNAやDNA)を検出する高感度法。

  • RT-PCR法 / リアルタイムPCR法
    → 現在最も信頼性の高い検査法。COVID-19やHIVで標準。
  • LAMP法・TMA法
    → PCRより簡便・迅速な代替法。現場検査にも利用される。
3. 抗体検査(血清学的検査)

ウイルス感染後に宿主が作る抗体(IgM, IgG)を検出。

  • IgM抗体: 初期感染を示す。
  • IgG抗体: 既感染または免疫獲得を示す。
    ワクチン接種や感染歴の確認に用いられる。
4. ウイルス分離・培養

ウイルスを細胞培養系で増やして同定する古典的手法。
現在では主に研究目的新興感染症の解析に用いられる。


■ 感染症診断の補助的検査

ウイルス感染症では、炎症や臓器障害の評価も重要です。

  • CRP・白血球数: 炎症の指標
  • 肝酵素・腎機能: 薬剤投与前の安全確認
  • 画像診断(CT・MRI): 肺炎・脳炎などの合併症評価

■ ウイルス感染症の治療原則

ウイルス感染に対する治療は、原因療法支持療法に大別されます。


■ 1. 抗ウイルス薬による原因療法

ウイルスの増殖過程を標的とした薬剤です。代表的な作用点と薬剤は以下の通りです。

作用段階代表的薬剤主な対象ウイルス
侵入阻害マラビロク(CCR5阻害)HIV
複製阻害アシクロビル、ガンシクロビルヘルペス属
逆転写酵素阻害ジドブジン、テノホビルHIV, HBV
プロテアーゼ阻害ロピナビル、グレカプレビルHIV, HCV
RNAポリメラーゼ阻害レムデシビル、ソホスブビルSARS-CoV-2, HCV
放出阻害オセルタミビル(ノイラミニダーゼ阻害)インフルエンザ

これらの薬剤は特定のウイルスにのみ有効であり、細菌感染のような「広域抗ウイルス薬」は存在しません。


■ 2. 支持療法(対症療法)

ウイルスそのものを直接排除できない場合、宿主の生理機能を保つことが重要です。

  • 解熱鎮痛薬: 発熱・頭痛・筋肉痛の緩和(例:アセトアミノフェン)
  • 輸液: 脱水や循環動態の安定化
  • 酸素投与・呼吸管理: 肺炎や呼吸不全への対応
  • 免疫グロブリン療法: 重症感染や免疫不全時に有効

■ 3. 免疫療法・新規治療

近年は、宿主免疫を調整して感染を抑えるアプローチが注目されています。

  • モノクローナル抗体療法: COVID-19やRSウイルス感染症で実用化
  • 免疫チェックポイント制御: 慢性感染症治療の研究段階
  • RNA干渉・CRISPRによる抗ウイルス戦略: 次世代治療として開発中

■ ワクチンによる予防

治療よりも重要なのが感染予防です。ワクチンは免疫記憶を形成し、発症や重症化を防ぎます。

  • 生ワクチン: 麻疹、風疹、水痘など
  • 不活化ワクチン: ポリオ、日本脳炎
  • 組換え・mRNAワクチン: B型肝炎、COVID-19など

ワクチンの普及は公衆衛生上、最も効果的なウイルス対策とされています。


■ 診断と治療のまとめ

ウイルス感染症の診断と治療は、**「正確なウイルス同定」「適切な時期の治療介入」**が鍵となります。
PCRや抗原検査の進歩により診断精度は大きく向上し、抗ウイルス薬やワクチン開発も急速に進展しています。

今後は、より**個別化された治療(precision medicine)**がウイルス学の臨床応用として期待されています。

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