🧬免疫細胞シリーズ 第5回:NK細胞 ― 腫瘍・ウイルス感染に対する即時防御

1. NK細胞とは何か

NK細胞(Natural Killer cell)はリンパ系細胞に属しますが、抗原特異性を持たない自然免疫系の細胞です。つまり、感染や腫瘍を「事前の学習なしに」感知し、即座に排除する即時防御機構を担います。

名前の“ナチュラルキラー”は、「生まれつき殺す能力を持つ」ことに由来します。


2. NK細胞の基本的な特徴

  • 発生部位:骨髄で分化し、末梢血・脾臓・肝臓などに存在
  • 形態:大型顆粒リンパ球(Large Granular Lymphocyte; LGL)
  • 主要マーカー:ヒトではCD16(FcγRIII)、CD56(NCAM)
  • MHC依存性:T細胞とは異なり、MHCによる抗原提示を必要としない

3. 「自己」か「非自己」かを見分ける仕組み

NK細胞は「Missing-self 認識」という独自の原理で異常細胞を見分けます。

正常な細胞は表面にMHCクラスI分子を発現していますが、ウイルス感染や腫瘍化した細胞はMHCクラスIの発現が低下します。
NK細胞は以下の受容体のバランスで攻撃の可否を判断します。

受容体のタイプ代表例機能
抑制性受容体KIR, NKG2AMHCクラスIを認識し「攻撃中止」信号を送る
活性化受容体NKG2D, NKp30, NKp46ストレス誘導分子を認識し「攻撃開始」信号を送る

この「抑制と活性のバランス制御」により、NK細胞は自己組織を誤って攻撃しないように働きます。


4. NK細胞の攻撃メカニズム

NK細胞は標的細胞を見つけると、以下の二つの主要経路で排除します。

  1. パーフォリン・グランザイム経路
    • パーフォリンが標的細胞膜に穴をあけ、グランザイムが細胞内へ侵入しアポトーシスを誘導。
  2. Fas/FasL経路
    • NK細胞表面のFasLが標的細胞のFas受容体と結合し、細胞死を誘導。

また、CD16(Fc受容体)を介して抗体で覆われた標的を認識し、**抗体依存性細胞傷害(ADCC)**を起こすこともあります。


5. サイトカインとの相互作用

NK細胞の活性は、他の免疫細胞からのサイトカインによって調節されます。

サイトカインNK細胞への作用
IL-12樹状細胞やマクロファージから分泌され、NK細胞のIFN-γ産生を促進
IL-15NK細胞の分化・生存・増殖を維持
IL-2活性化T細胞から分泌され、NK細胞の細胞傷害能を高める

このように、NK細胞は自然免疫と獲得免疫の橋渡し的な存在でもあります。


6. がん免疫におけるNK細胞の役割

NK細胞は腫瘍の**免疫監視機構(immune surveillance)**を担います。初期の腫瘍細胞を早期に排除する一方、腫瘍が進行すると、NK細胞の機能が低下(“NK cell exhaustion”)することが知られています。

  • がん免疫療法との関連
    • IL-15誘導療法:NK細胞を活性化するサイトカイン治療
    • CAR-NK療法:CAR-T療法の安全性を改良した新技術
    • チェックポイント阻害:T細胞だけでなくNK細胞にもPD-1/PD-L1経路が存在

7. NK細胞とウイルス感染

インフルエンザウイルスやヘルペスウイルス感染時、NK細胞は感染初期から強力に働きます。ウイルス感染細胞はMHCクラスIを下げるため、NK細胞が選択的に認識・排除します。
また、NK細胞由来のIFN-γがマクロファージや樹状細胞を活性化し、全身的な抗ウイルス応答を強化します。


8. まとめ

NK細胞は「即応型の殺し屋」として自然免疫の第一線を守る存在です。
感染・腫瘍の初期段階で迅速に異常細胞を排除し、同時に獲得免疫の起動にも関与します。その柔軟で強力な機能は、今後の免疫療法開発においても注目されています。


次回予告

次回は「第6回:T細胞 ― 免疫応答の指揮官と記憶の担い手」をテーマに、ヘルパーT、キラーT、制御性T細胞など、免疫応答の中心的役割を持つT細胞を詳しく解説します。

【免疫細胞シリーズ④】樹状細胞:獲得免疫の起点となる抗原提示細胞

はじめに:樹状細胞とは

樹状細胞(dendritic cell, DC)は、枝のように突起を伸ばす形態から名付けられた免疫細胞で、獲得免疫の起点となる抗原提示細胞(APC)です。
自然免疫の一員として異物を認識・取り込み、その情報をT細胞へ提示することで、抗原特異的な免疫応答を開始します。


樹状細胞の発見と意義

1973年、カナダのラルフ・スタインマン(Ralph Steinman)によって発見され、その後、彼はこの業績により2011年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
それまで「マクロファージが主な抗原提示細胞」と考えられていましたが、樹状細胞の発見により、免疫応答の開始に特化した細胞が存在することが明らかになりました。


樹状細胞の起源と分化

樹状細胞は骨髄の造血幹細胞に由来し、血液中を循環して末梢組織に移動します。成熟段階に応じて大きく以下の2系統に分けられます。

分類主な特徴機能
cDC(conventional DC:古典的樹状細胞)抗原提示に特化T細胞活性化、サイトカイン産生
pDC(plasmacytoid DC:形質細胞様樹状細胞)ウイルス感染感知に特化I型インターフェロン産生

さらに、cDCは2つのサブセットに分かれます:

  • cDC1:クロスプレゼンテーション(外来抗原をMHCクラスI経路で提示)を行い、CD8⁺T細胞を活性化。
  • cDC2:抗原をMHCクラスII経路で提示し、CD4⁺T細胞を活性化。

樹状細胞の成熟と活性化

樹状細胞は常に周囲の環境を「監視」しています。未熟状態では高い貪食能を持ち、異物を取り込みます。
しかし、パターン認識受容体(PRR)を介して病原体関連分子(PAMPs)を認識すると、樹状細胞は成熟化します。

成熟樹状細胞では:

  • 抗原提示分子(MHCクラスI・II)の発現増強
  • 共刺激分子(CD80、CD86、CD40など)の発現上昇
  • サイトカイン産生(IL-12、IL-6など)
  • リンパ節への移動

これにより、T細胞を効率的に活性化する能力を獲得します。


樹状細胞の主な機能

1. 抗原提示

樹状細胞はMHC分子を介して抗原ペプチドをT細胞へ提示し、T細胞の初期活性化を担います。

  • MHCクラスI経路:内在性抗原(ウイルス感染細胞など)をCD8⁺T細胞へ提示
  • MHCクラスII経路:外来性抗原をCD4⁺T細胞へ提示
  • クロスプレゼンテーション:外来抗原をMHCクラスI経路に載せる特殊な機構

2. 免疫応答の方向づけ

樹状細胞は分泌するサイトカインによって、T細胞分化の方向(Th1、Th2、Th17、Tregなど)を決定します。
例:

  • IL-12 → Th1誘導(細胞性免疫)
  • IL-10 → Treg誘導(免疫抑制)

3. 免疫寛容の維持

自己抗原を提示しつつもT細胞を活性化しない「トレランス誘導型DC」は、自己免疫疾患の防止に寄与します。


樹状細胞と疾患の関係

1. 感染症

ウイルス感染時、pDCがI型インターフェロンを大量に分泌して抗ウイルス状態を誘導します。
cDCは抗原提示を通じて、ウイルス特異的T細胞を活性化します。

2. 自己免疫疾患

樹状細胞が誤って自己抗原を提示すると、自己反応性T細胞が活性化され、自己免疫疾患(多発性硬化症、1型糖尿病など)が発症します。

3. がん

腫瘍微小環境では、樹状細胞の成熟が阻害されることが多く、抗原提示能の低下が免疫逃避の一因になります。
これを逆手に取ったDCワクチン療法(腫瘍抗原で樹状細胞を活性化して体内へ戻す治療)が臨床応用されています。


樹状細胞研究の最前線

  • シングルセル解析により、組織常在型DCの多様性が明らかに。
  • クロスプレゼンテーション機構の分子基盤が解明されつつあります。
  • 免疫療法応用:DCを用いたがんワクチン、免疫寛容誘導療法、ナノ粒子を使ったDC標的ドラッグデリバリーなどが進展中です。

まとめ

樹状細胞は「免疫の翻訳者」と呼ばれるほど重要な役割を持ちます。
病原体の情報を正確にT細胞へ伝えることで、自然免疫と獲得免疫の橋渡しを担い、免疫応答全体を方向づける存在です。
がん、感染症、自己免疫など多くの疾患で樹状細胞を標的とした治療法が研究されており、今後も免疫学の中心的テーマであり続けるでしょう。

【免疫細胞シリーズ③】好中球・好酸球・好塩基球:炎症の最前線で戦う白血球たち

はじめに:顆粒球とは

好中球・好酸球・好塩基球は、いずれも骨髄で作られる顆粒球(granulocyte)に分類される白血球です。
それぞれの細胞質には特有の顆粒が含まれ、これらの顆粒に殺菌・炎症調節・免疫修飾作用を持つタンパク質が蓄えられています。
彼らは主に自然免疫
の一員として、感染やアレルギー、組織損傷などの現場で迅速に反応します。


1. 好中球(neutrophil):感染防御の最前線

概要

好中球は、白血球の中で最も多く(全白血球の50〜70%)を占める細胞で、感染部位に最初に集結する「第一応答者」です。寿命は短く、通常1〜2日で死滅しますが、その短期間に強力な防御反応を展開します。

主な機能

  • 貪食作用:細菌や真菌を取り込み、リソソームで分解。
  • 殺菌顆粒の放出:ミエロペルオキシダーゼ、エラスターゼ、ラクトフェリンなどを放出して殺菌。
  • NETs形成(Neutrophil Extracellular Traps):DNAと抗菌タンパク質を放出し、病原体を網のように捕捉。

疾患との関連

  • 感染症:好中球減少症では細菌感染に極めて脆弱になります。
  • 炎症性疾患:過剰な好中球活性化は組織障害を引き起こし、敗血症や慢性炎症の原因となります。

2. 好酸球(eosinophil):寄生虫防御とアレルギー反応の担い手

概要

好酸球は全白血球の1〜5%を占め、寄生虫感染やアレルギー反応に関与します。顆粒は酸性染色(エオシン)に強く染まることから名づけられました。

主な機能

  • 寄生虫防御:主要塩基性タンパク(MBP)、好酸球ペルオキシダーゼ(EPO)などの毒性分子を放出し、寄生虫を攻撃。
  • アレルギー反応:IgEを介した刺激で活性化し、気道や皮膚に炎症を引き起こします。
  • 免疫調節:IL-4、IL-13を分泌し、Th2型免疫応答を増強。

疾患との関連

  • 気管支喘息:気道内の好酸球増加が特徴的で、慢性炎症や気道過敏性を引き起こします。
  • 好酸球性副鼻腔炎・皮膚炎:慢性アレルギー疾患に深く関与。
  • 寄生虫感染:アニサキス症やフィラリア症などで好酸球増多が見られます。

3. 好塩基球(basophil):アレルギー反応の触媒

概要

好塩基球は白血球の中で最も数が少なく(全体の1%未満)、塩基性色素で濃く染まる顆粒を持ちます。
マスト細胞と似た性質を持ち、IgE受容体を介してアレルギー反応を誘導します。

主な機能

  • ヒスタミン放出:アレルゲン刺激により顆粒からヒスタミンやヘパリンを放出し、血管拡張や透過性亢進を引き起こします。
  • サイトカイン産生:IL-4、IL-13を放出してTh2細胞分化を促進。
  • マスト細胞との連携:好塩基球は循環系で働くのに対し、マスト細胞は組織常在型です。

疾患との関連

  • アナフィラキシー:全身的な急性アレルギー反応を引き起こす主要因。
  • 花粉症・アトピー性皮膚炎:好塩基球やマスト細胞の過剰活性が症状を悪化させます。

顆粒球の相互作用と炎症制御

これら3種類の顆粒球は、単独で働くのではなく、互いに連携して炎症を調整します。
たとえば、好中球が放出するサイトカインが好酸球の集積を誘導し、好酸球は炎症終息期に抗炎症性因子を分泌して反応を鎮静化します。
こうしたバランスが崩れると、慢性炎症やアレルギー疾患が持続的に進行します。


まとめ

好中球・好酸球・好塩基球は、感染や炎症の「最前線」で活躍する白血球です。

  • 好中球:感染初期の防御
  • 好酸球:寄生虫とアレルギー制御
  • 好塩基球:アレルギー誘発と免疫調節

それぞれが独自の役割を持ちながらも、協調的に働くことで生体防御の均衡を保っています。

【免疫細胞シリーズ②】マクロファージ:免疫の司令塔と清掃員

はじめに:マクロファージとは

マクロファージ(macrophage)は、ギリシャ語で「大食細胞」を意味します。その名の通り、細菌や老廃細胞を“食べて”除去する貪食能を持つ細胞で、自然免疫の最前線に位置します。
しかし単なる「掃除屋」ではなく、炎症を誘導・鎮静化し、さらには組織修復やがん免疫の制御など、多彩な生理機能を担う極めて重要な免疫細胞です。


マクロファージの起源と分化

マクロファージは主に2つの起源を持ちます:

  1. 骨髄由来モノサイト経路
    骨髄で作られた単球(monocyte)が血液中を循環し、炎症や損傷部位に遊走してマクロファージへと分化します。
  2. 胎生期由来の常在マクロファージ
    胎生期に発生し、肝臓・肺・脳などに定着して一生を通じて維持されるタイプです。
    例:
    • 肝臓:クッパー細胞(Kupffer cell)
    • 肺:肺胞マクロファージ
    • 脳:ミクログリア
    • 脾臓・リンパ節:辺縁帯マクロファージ

これらのマクロファージは、臓器ごとに異なる環境シグナルに応答して独自の遺伝子発現パターンを持ち、組織恒常性の維持に寄与します。


M1・M2マクロファージの機能的分極

マクロファージは環境刺激に応じて、機能的に大きく2つの型へ分化します。

分類主な刺激主な機能分泌サイトカイン
M1型(古典的活性化型)IFN-γ、LPS炎症誘導、病原体排除、腫瘍抑制IL-1β、IL-6、TNF-α、IL-12
M2型(代替的活性化型)IL-4、IL-13組織修復、抗炎症、腫瘍促進IL-10、TGF-β、VEGF

M1とM2は一方的な分類ではなく、実際の生体内ではその中間や可塑的な状態が存在します。
たとえば、がん組織内のマクロファージ(TAM: tumor-associated macrophage)は多くの場合M2様の性質を示し、腫瘍の免疫抑制や血管新生を助長します。


主な役割

マクロファージの機能は非常に多岐にわたります。

① 貪食作用

細菌・アポトーシス細胞・異物などを取り込み、リソソームで分解します。
この過程で抗原情報を得て、次の免疫応答へと繋げます。

② 抗原提示

マクロファージは貪食した異物の断片(抗原)をMHCクラスII分子に提示し、T細胞を活性化します。これにより、自然免疫から獲得免疫への橋渡しが行われます。

③ サイトカイン産生

炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-αなど)を放出し、感染部位への免疫細胞の動員や炎症反応の制御を行います。

④ 組織修復・線維化

炎症の終息期には、損傷組織の修復を促進する因子(TGF-β、VEGFなど)を分泌し、血管新生や線維芽細胞の活性化を誘導します。


マクロファージと疾患の関係

1. 感染症

マクロファージは細菌やウイルスを貪食して排除しますが、一部の病原体(例:結核菌、HIV)はマクロファージ内で生存・増殖する能力を持ちます。

2. 慢性炎症

過剰なM1活性は自己免疫疾患や慢性炎症(関節リウマチ、動脈硬化など)を引き起こします。

3. がん

腫瘍関連マクロファージ(TAM)はがん微小環境の中心的プレイヤーです。
TAMはVEGFやMMPを分泌して腫瘍血管新生や転移を促進し、免疫抑制性サイトカイン(IL-10、TGF-β)によりT細胞応答を抑制します。
このため、TAMを標的とした抗腫瘍免疫療法(例:CSF1R阻害、CCR2阻害など)が注目されています。


マクロファージの可塑性と新たな研究動向

最新研究では、マクロファージが環境に応じて柔軟に機能を切り替える「可塑性」が注目されています。
がん、代謝疾患、組織再生、老化など、多様な文脈でマクロファージの役割が再定義されつつあります。
特に、単一細胞解析や空間トランスクリプトミクスを用いた研究により、組織常在型マクロファージの分子特徴が次々と明らかになっています。


まとめ

マクロファージは、感染防御・免疫制御・組織修復・腫瘍免疫といった多様な機能を担う“免疫の司令塔”です。
単なる貪食細胞ではなく、環境応答性に富んだ多機能細胞として、免疫学・がん学・再生医学のあらゆる分野で重要な研究対象となっています。

【免疫細胞シリーズ①】免疫細胞の全体像:身体を守る多様な防御システム

はじめに:免疫細胞とは

免疫細胞とは、体内に侵入した細菌・ウイルス・異物を認識し、排除するために働く細胞群の総称です。骨髄で作られた造血幹細胞を起源とし、さまざまな分化経路を経て多様な機能を持つ細胞群へと成熟します。
これらの細胞は血液中やリンパ組織、さらには組織中に常駐し、体内の防御ネットワークを構築しています。


免疫の二本柱:自然免疫と獲得免疫

免疫システムは大きく「自然免疫」と「獲得免疫」に分けられます。

自然免疫(innate immunity)

生まれつき備わっている防御機構で、侵入した異物を即座に認識し、非特異的に排除します。主に以下の細胞が関与します:

  • マクロファージ:異物を貪食・分解し、サイトカインを放出して免疫反応を誘導。
  • 好中球:最前線で感染部位に集まり、強力な殺菌作用を発揮。
  • 樹状細胞:抗原を捕捉し、獲得免疫へと橋渡し。
  • NK細胞:ウイルス感染細胞や腫瘍細胞を直接破壊。

獲得免疫(adaptive immunity)

感染後に形成される“学習型”の免疫で、特定の抗原を記憶し、再感染時に迅速かつ強力に反応します。主な細胞は以下の通りです:

  • T細胞:抗原提示を受けて活性化し、感染細胞の破壊や他の免疫細胞の制御を担う。
  • B細胞:抗体を産生し、抗原に特異的な免疫応答を形成。

主な免疫細胞の系譜

免疫細胞は、造血幹細胞から分化した「骨髄系」と「リンパ系」に大別されます。

系統主な細胞主な役割
骨髄系マクロファージ、好中球、好酸球、好塩基球、樹状細胞自然免疫、炎症応答、抗原提示
リンパ系T細胞、B細胞、NK細胞獲得免疫、免疫記憶、腫瘍監視

このように、免疫細胞は互いに連携しながら、感染防御・損傷修復・腫瘍排除といった多様な働きを果たしています。


免疫細胞間のクロストーク

免疫細胞同士はサイトカインやケモカインと呼ばれる分泌因子を介して、緻密な情報交換を行っています。
たとえば、樹状細胞がT細胞を活性化し、T細胞がマクロファージの貪食能を高めるなど、連鎖的な協調反応が起こります。
この「免疫ネットワーク」の破綻は、自己免疫疾患やがん免疫回避の要因にもなります。


まとめと次回予告

免疫細胞は、単独ではなくネットワークとして機能する精密な防御システムです。
次回はその中心的プレーヤーである「マクロファージ」について、起源・分化・機能・がんや炎症との関係を詳しく解説します。

(第6回:特殊な組織)特殊な組織:血液・リンパ・造血の仕組みをわかりやすく解説

特殊な組織とは

血液やリンパは、形態的には液体ですが、広義の結合組織に分類されます。
その理由は、発生的に間葉系(mesenchyme)由来であり、細胞と細胞外基質(血漿・リンパ液)から構成されるためです。
これらの組織は、物質輸送・免疫防御・恒常性維持など、全身の機能を支える重要な役割を担っています。


1. 血液(Blood)

血液の構成

  • 血漿(plasma):液体成分。水、電解質、タンパク質(アルブミン、フィブリノーゲン、免疫グロブリンなど)を含む。
  • 血球成分:赤血球・白血球・血小板の3系統。

赤血球(erythrocyte)

  • 無核・円盤状で、酸素運搬を担う。
  • ヘモグロビンを多量に含み、酸素と可逆的に結合。
  • 骨髄で造血幹細胞から分化し、約120日で脾臓で破壊される。

白血球(leukocyte)

  • 免疫応答を担う。顆粒球・リンパ球・単球に分類。
    • 好中球:貪食作用。急性炎症の中心。
    • 好酸球:寄生虫感染やアレルギー反応に関与。
    • 好塩基球:ヒスタミン放出などアレルギー応答。
    • リンパ球:免疫の司令塔(B細胞・T細胞・NK細胞)。
    • 単球:組織内でマクロファージに分化し、異物処理を担う。

血小板(platelet)

  • 骨髄の巨核球から分裂して生じる小片。
  • 血液凝固と止血に必須。

2. 造血組織(Hematopoietic tissue)

造血は主に骨髄で行われます。胎児期には肝臓や脾臓でも造血が見られます。

造血の基本原理

  • すべての血球は**造血幹細胞(HSC)**から分化。
  • 幹細胞 → 前駆細胞 → 成熟血球 という段階を経る。
  • ホルモンによる制御:
    • エリスロポエチン(EPO):赤血球産生促進
    • トロンボポエチン(TPO):血小板産生促進
    • G-CSF:好中球分化促進

3. リンパ組織(Lymphatic tissue)

リンパの役割

血液の毛細管から漏出した液体を回収し、免疫応答を行う。

一次リンパ器官

  • 胸腺:T細胞の分化・成熟
  • 骨髄:B細胞の成熟

二次リンパ器官

  • リンパ節:抗原提示とリンパ球活性化の場。皮質にB細胞、傍皮質にT細胞が局在。
  • 脾臓:血液の濾過・老化赤血球の除去・免疫応答の誘導。
  • MALT(粘膜関連リンパ組織):消化管や呼吸器に分布し、局所免疫に関与。

4. 臨床との関連

  • 貧血:赤血球やヘモグロビンの減少。鉄欠乏性・再生不良性など多様。
  • 白血病:造血幹細胞の腫瘍性増殖。
  • リンパ腫:リンパ組織由来の悪性腫瘍。
  • 多発性骨髄腫:形質細胞の異常増殖。
  • リンパ浮腫:リンパ液の排出障害による組織浮腫。

📌 まとめ
血液とリンパは、体の中を流れる“液体の結合組織”として、酸素運搬、免疫、防御、恒常性維持の中心的役割を担います。
その細胞構成と分化経路を理解することは、臨床病態の理解に直結します。

(第5回:神経組織)神経組織の基礎:ニューロンとグリア細胞の構造と機能

神経組織とは

神経組織(nervous tissue)は、体内の情報伝達・統合・制御を担う組織です。神経系は中枢神経系(脳・脊髄)と末梢神経系(末梢神経・神経節)に分けられます。
その基本単位が ニューロン(神経細胞) と、それを支える グリア細胞(支持細胞) です。


ニューロン(Neuron)

ニューロンは電気的興奮を伝える細胞で、情報の受容・統合・伝達を担います。

ニューロンの基本構造

  • 細胞体(ソーマ):核を含み、代謝活動の中心。
  • 樹状突起(dendrite):他の細胞からの信号を受け取る。
  • 軸索(axon):興奮を他の細胞に伝える。末端はシナプスを形成。

ニューロンの分類

  • 形態的分類:多極・双極・単極など。
  • 機能的分類
    • 感覚ニューロン(求心性)
    • 運動ニューロン(遠心性)
    • 介在ニューロン(中継・統合)

シナプス(Synapse)

ニューロン間の接続部位。電気的興奮を**化学物質(神経伝達物質)**を介して伝える。
主要な伝達物質には、アセチルコリン、グルタミン酸、GABA、ドパミンなどがある。


グリア細胞(Glial cells)

神経組織の支持・栄養・保護を担う細胞群。ニューロンよりも数が多い。

中枢神経系のグリア細胞

  • アストロサイト:代謝支持、イオンバランス調整、血液脳関門の形成
  • オリゴデンドロサイト:中枢神経の髄鞘形成
  • ミクログリア:免疫監視・貪食作用(脳のマクロファージ)
  • 上衣細胞:脳室や脊髄管を覆い、脳脊髄液の循環に関与

末梢神経系のグリア細胞

  • シュワン細胞(Schwann cell):末梢神経の髄鞘形成
  • 衛星細胞:神経節内でニューロンを支持

髄鞘と跳躍伝導

髄鞘(myelin sheath)は、軸索を絶縁する膜構造で、神経伝導の高速化に寄与します。
髄鞘がある軸索ではランヴィエ絞輪を介して興奮が飛び飛びに伝わる(跳躍伝導)。


神経組織の再生と可塑性

ニューロンは一般に分裂しないが、神経回路はシナプス可塑性により機能的再構築が可能です。
末梢神経はある程度再生能を持つが、中枢神経では限定的です。


臨床との関連

  • 多発性硬化症(MS):中枢の髄鞘脱失
  • アルツハイマー病:神経変性とシナプス障害
  • パーキンソン病:ドパミン神経の変性
  • 末梢神経障害:糖尿病性神経障害など

📌 まとめ
神経組織はニューロンとグリア細胞からなり、電気信号と化学伝達を組み合わせて全身の情報ネットワークを形成します。
その精緻な構造と機能の理解は、神経疾患や脳科学の基礎となります。

(第4回:筋組織)筋組織の基礎:骨格筋・心筋・平滑筋の構造と特徴

筋組織とは

筋組織(muscle tissue)は、収縮によって力を生み出し、体の運動や臓器の働きを制御する組織です。細胞は細長く「筋線維」と呼ばれ、アクチンとミオシンという収縮性タンパク質がその機能の中心を担います。


筋組織の3つの種類

1. 骨格筋(skeletal muscle)

  • 特徴:随意筋。体の運動を担う。多核で明瞭な横紋を持つ。
  • 構造:筋線維(筋細胞)が多数束ねられて筋束を形成。筋膜で包まれる。
  • 支配神経:体性運動神経。意思により収縮。
  • ミクロ構造:アクチンとミオシンが規則的に配列し、サルコメア(筋節)を形成。Z線〜Z線が基本単位。
  • :骨格筋群(上腕二頭筋、大腿四頭筋など)

2. 心筋(cardiac muscle)

  • 特徴:不随意筋。心臓壁を構成。横紋を持つが、分岐構造を示す。
  • 構造:単核または2核。介在板(intercalated disc) により電気的・機械的に連結。
  • 支配:自動能を持ち、洞房結節などの刺激伝導系で制御。
  • 特徴的性質:不随意ながらリズミカルに収縮し、全身に血液を送り出す。

3. 平滑筋(smooth muscle)

  • 特徴:不随意筋。横紋を持たず、紡錘形の単核細胞。
  • 分布:消化管・血管・膀胱・子宮などの内臓壁。
  • 支配:自律神経(交感・副交感神経)。
  • 構造的特徴:アクチンとミオシンは不規則に配置され、ゆるやかに持続的な収縮を行う。

筋収縮の基本原理

  • 滑り説(Sliding filament theory):アクチンとミオシンが互いに滑り込むことでサルコメアが短縮し、筋収縮が起こる。
  • カルシウムイオン(Ca²⁺) が収縮開始のスイッチとなり、トロポニン-トロポミオシン複合体を介してアクチン・ミオシン相互作用を制御する。
  • 骨格筋では神経刺激、心筋ではペースメーカー細胞、平滑筋ではホルモンや伸展刺激が収縮のトリガーとなる。

筋組織の臨床的重要性

  • 筋萎縮・筋ジストロフィー:骨格筋の変性・萎縮を伴う疾患
  • 心筋梗塞:心筋細胞の壊死による不可逆的障害
  • 平滑筋腫:子宮筋腫などに代表される良性腫瘍
  • ミトコンドリア病:エネルギー代謝異常による筋力低下

📌 まとめ
筋組織は「力を生み出す」組織として、骨格筋・心筋・平滑筋の3タイプに分類されます。それぞれ構造や制御様式が異なり、形態を理解することが機能・疾患の理解につながります。

第3回:結合組織 結合組織の基礎:種類と機能をわかりやすく解説

結合組織とは

結合組織(connective tissue)は、体のさまざまな組織や臓器を結びつけ、支持・保護・代謝などを担う組織です。上皮組織が「境界やバリア」であるのに対し、結合組織は「支持と連結の役割」を果たします。

結合組織の大きな特徴は、細胞そのものよりも 細胞外基質(extracellular matrix, ECM) が豊富であることです。ECMにはコラーゲンやエラスチン線維、基質(プロテオグリカン、糖タンパク質など)が含まれます。


結合組織の基本的な役割

  • 組織・臓器の支持と結合
  • 力学的強度の付与(腱・靭帯など)
  • エネルギー貯蔵(脂肪組織)
  • 物質交換(血液・リンパ)
  • 免疫応答(マクロファージ・形質細胞などを含む)

結合組織の分類

1. 固有の結合組織

  • 疎性結合組織:細胞や線維が疎に配置。皮膚真皮や粘膜下に存在し、柔軟性と物質交換を担う
  • 密性結合組織:線維が密に配列。
    • 規則性:腱や靭帯。力の方向に強い
    • 不規則性:真皮深層。多方向の力に耐える

2. 特殊な結合組織

  • 脂肪組織:エネルギー貯蔵、保温、クッション作用。白色脂肪と褐色脂肪に分けられる
  • 軟骨:柔軟な支持組織。ヒアルロン酸やⅡ型コラーゲンを多く含む
    • 硝子軟骨:関節・気管支
    • 弾性軟骨:耳介・喉頭蓋
    • 線維軟骨:椎間板・恥骨結合
  • :カルシウム塩を沈着させた硬組織。支持と造血を担う
    • 緻密骨:骨幹部。ハバース管・オステオン構造
    • 海綿骨:骨端部。骨髄腔を含む
  • 血液:液体状の結合組織。赤血球・白血球・血小板を含み、栄養や酸素の運搬を担う

結合組織の主要な細胞

  • 線維芽細胞:線維や基質を産生
  • 脂肪細胞:エネルギー貯蔵
  • マクロファージ:貪食作用、免疫応答
  • 形質細胞:抗体産生
  • 肥満細胞:ヒスタミン放出、アレルギー反応に関与

臨床との関連

  • 線維化:慢性炎症後の組織硬化(肝硬変、肺線維症など)
  • 骨粗鬆症:骨基質の減少による骨脆弱化
  • 関節疾患:軟骨の変性(変形性関節症など)
  • がん微小環境:結合組織が腫瘍の進展に深く関与

📌 まとめ
結合組織は支持と結合を基本としながら、脂肪・軟骨・骨・血液といった多彩な形態をとります。その機能は力学的支持から代謝、免疫まで幅広く、臨床的にも極めて重要です。


👉 次回は 筋組織 を取り上げます。

第2回:上皮組織 上皮組織の基礎:種類と機能をわかりやすく解説

上皮組織とは

上皮組織(epithelial tissue)は、体の内外を覆い、物質の移動や外界からの保護を担う重要な組織です。細胞同士が密に接着しており、基底膜を介して下層の結合組織と接しています。血管を含まないため、栄養や酸素は基底膜を通して拡散により供給されます。


上皮組織の基本的な役割

  • 保護:体表や粘膜を覆い、機械的損傷や病原体から守る
  • 吸収:小腸上皮などで栄養を取り込む
  • 分泌:腺上皮がホルモンや消化液を産生
  • 感覚受容:味蕾や嗅上皮に見られる特殊化

上皮組織の分類

上皮組織は「細胞の層の数」と「細胞の形」によって分類されます。

1. 単層上皮(細胞が1層に並ぶ)

  • 単層扁平上皮:肺胞、血管内皮。拡散やろ過に適する
  • 単層立方上皮:腎尿細管、腺上皮。分泌・吸収を担う
  • 単層円柱上皮:小腸、胃。吸収・分泌に特化。しばしば微絨毛あり
  • 多列円柱上皮(仮性多層):気管。線毛と杯細胞を含み、異物排除に寄与

2. 重層上皮(複数層で構成される)

  • 重層扁平上皮
    • 角化型:皮膚の表皮(外界に強い抵抗性)
    • 非角化型:口腔、食道、膣(摩擦に耐えるが湿潤)
  • 重層円柱上皮・立方上皮:比較的まれ。尿道や腺の導管に存在

3. 移行上皮

膀胱に特有。尿量に応じて細胞の形が変化し、伸展性を持つ。


上皮と腺

上皮組織の一部は分泌機能に特化し、「腺」を形成します。

  • 外分泌腺:消化液や汗を分泌(例:胃腺、唾液腺、汗腺)
  • 内分泌腺:血中にホルモンを分泌(例:甲状腺、副腎)

上皮組織の臨床的重要性

  • がんの発生母地:多くのがんは上皮由来(上皮性腫瘍=癌腫)
  • バリア機能:炎症や感染症の初期防御に直結
  • 病理診断:HE染色や免疫染色で腫瘍や炎症の評価が行われる

📌 まとめ
上皮組織は体の内外を覆い、保護・吸収・分泌など多彩な役割を果たす基本組織です。分類を理解することで、臨床診断や病理像の理解につながります。


👉 次回は 結合組織 を取り上げます。