1930年代後半:現代医学が完成に近づいた時代
1936〜1939年は、医学史の中でも特に重要な4年間です。
この時代に
- 神経伝達物質の存在が確定
- ビタミン研究が完成段階へ
- 抗生物質の臨床応用が目前
となり、現代医学の基本概念がほぼ出揃ったと言われます。
1936年
神経伝達物質の発見
1936年のノーベル生理学・医学賞は
- Otto Loewi
- Henry Hallett Dale
に授与されました。
神経は電気だけではなかった
1932年に
- Charles Scott Sherrington
- Edgar Douglas Adrian
が神経信号の電気的性質を示しましたが、
1936年にはそれに加えて
「神経は化学物質でも情報を伝える」
ことが証明されます。
アセチルコリンの発見
Loewiは有名なカエル心臓実験により、
神経刺激によって放出される物質を発見しました。
この物質が
- Acetylcholine
です。
これは世界初の
神経伝達物質(neurotransmitter)
の発見でした。
神経科学と精神医学への影響
この発見は現在の
- 抗うつ薬
- 抗精神病薬
- 認知症治療薬
など、すべての神経系薬剤の理論的基盤となっています。🧠
1937年
ビタミン研究の完成
1937年のノーベル生理学・医学賞は
- Albert Szent-Györgyi
に授与されました。
ビタミンCの単離
彼は
- Ascorbic acid
を単離し、壊血病との関係を解明しました。
これにより、
壊血病は感染症ではなく栄養欠乏症
であることが確定しました。
栄養学が医学の中心へ
この研究は、
- 予防医学
- 食事療法
- 公衆衛生
の発展を決定づけました。
現代のサプリメント医療や栄養疫学の起点も、この研究にあります。
1938年
ノーベル賞授与なし
1938年は医学賞の授与はありませんでしたが、科学的には重要な年でした。
この年、後に抗生物質革命を起こす
- Howard Florey
- Ernst Boris Chain
が
- Alexander Fleming
の発見したペニシリンの精製研究を本格化させています。
これは1940年代の医学を一変させる伏線でした。
1939年
神経系の統合機構の解明
1939年のノーベル生理学・医学賞は
- Gerhard Domagk
に授与されました。
世界初の化学療法薬
Domagkは
- Prontosil
という化合物を開発し、
細菌感染症に対する初の有効な化学療法薬を実現しました。
これは
抗生物質以前の抗菌薬
として歴史的な意味を持ちます。
抗菌化学療法の誕生
この研究により医学は
- 手術
- ワクチン
- 衛生
に加え、
薬で細菌を直接殺す
という新しい戦略を手に入れました。
これは後の
- Penicillin
時代の扉を開く発見でした。
この4年間の科学的意義
1936〜1939年の研究は、医学の根幹をなす3つの革命を完成させました。
① 神経伝達物質の確定
電気 + 化学
という二重の神経伝達モデルが確立しました。
これにより現在の
- シナプス薬理学
- 精神疾患モデル
- 神経回路計算
が成立しています。
② 栄養欠乏症の分子基盤
ビタミン研究は
- 分子レベルの栄養学
を生み出しました。
これは現在の
- メタボリズム研究
- 老化研究
- がん代謝
に直結しています。
③ 抗菌薬時代の幕開け
Domagkの研究により、
感染症は
「治療できる病気」
へと変わりました。
これは人類の平均寿命を大きく延ばした医学史上最大級の転換点です。
1930年代後半は
神経・栄養・感染症治療
という現代医学の三大領域が完成した時代でした。
次回予告
次回は
第10回:1940〜1943年
を解説します。
ここでは
- ペニシリンの臨床応用
- 戦時下医学の加速
- 免疫学の進展
など、第二次世界大戦と医学の関係が中心テーマになります。