■ 抗インフルエンザ薬の分類
現在臨床で使用される抗インフルエンザ薬は大きく以下の 3 系統に分けられます。
- ノイラミニダーゼ阻害薬(NA阻害薬)
- キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬(バロキサビル)
- M2イオンチャネル阻害薬(アマンタジン系)※現在は実質使用されない
A型・B型の双方に有効なのは NA阻害薬とバロキサビル です。
■ 1. ノイラミニダーゼ阻害薬(NA inhibitors)
● 代表薬
- オセルタミビル(タミフル)
- ザナミビル(リレンザ)
- ラニナミビル(イナビル)
- ペラミビル(ラピアクタ:静注)
● 作用機序
ウイルス表面の ノイラミニダーゼ(NA) は、感染細胞からウイルス粒子が離脱する際に必要な酵素です。
NA阻害薬はこの酵素をブロックし、以下を阻害します:
- 感染細胞からのウイルス放出を阻害
- ウイルスの拡散を抑制
→ 発症後48時間以内の投与が最も有効。
● 耐性
代表的な変異:
- H275Y(N1系):オセルタミビル耐性
- R292K(N2系):ザナミビル以外に高度耐性
近年はワクチン接種率やウイルス遺伝子背景により、耐性株の流行は比較的抑えられています。
■ 2. バロキサビル(キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬)
● 代表薬
- バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ)
● 作用機序
インフルエンザウイルスはmRNA合成の際に
“cap-snatching”(宿主mRNAのキャップを切り取って利用)
を行います。
バロキサビルはこれに必要な酵素
PAサブユニットのエンドヌクレアーゼ活性
を阻害し、ウイルスmRNAの合成を封じます。
→ 増殖初期に強い効果を持つ「1回投与」の薬。
● 耐性
- **I38T/M変異(PA遺伝子)**が最も有名
- 感染後のウイルスから出現しやすいが、伝播力はやや低下することが多い
- 小児で耐性が出やすいことが報告され、使用指針に影響している
■ 3. M2イオンチャネル阻害薬(アマンタジン系)
● 代表薬
- アマンタジン
- リマンタジン
● 作用機序
M2イオンチャネルの働きを阻害し、ウイルス侵入後の**脱殻(uncoating)**を阻止します。
● 臨床ではほぼ使用されない理由
- A型のほとんどが S31N変異により高度耐性
- B型には構造的にM2タンパクが異なるため 効果がない
■ 抗インフルエンザ薬の使い分け(概要)
| 薬剤系統 | 作用する型 | 特徴 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| NA阻害薬 | A/B | 拡散阻害、実績豊富 | 早期投与が必要 |
| バロキサビル | A/B | 1回投与、増殖初期を抑える | 耐性(I38T)が出やすい |
| M2阻害薬 | Aのみ | 脱殻阻害 | 現在は耐性で使用困難 |
■ まとめ
- NA阻害薬はウイルス放出を抑え、現在も標準的治療
- バロキサビルはエンドヌクレアーゼ阻害により増殖を抑える新しい作用点
- M2阻害薬は耐性蔓延により現実的には使用されない
- いずれの薬も 早期投与が効果の鍵
- 耐性は主にウイルスの表面タンパク(NA)やポリメラーゼ複合体(PA)の点変異によって生じる