1. コラーゲンと疾患:なぜ重要なのか
コラーゲンは、組織の強度・形状・弾性を規定する構造タンパク質であり、全タンパク質の約30%を占めます。
生合成・架橋・分解のバランスが崩れると、組織の硬さ・柔らかさが変化し、さまざまな疾患発症に直結します。
2. 線維化(Fibrosis)
◆ 病態の本質
線維化とは、コラーゲンI/IIIを中心とするECMが過剰蓄積する病態で、慢性炎症や組織損傷の結果として生じます。
主なメカニズム
- TGF-β:線維化の“マスター因子”。線維芽細胞を活性化し、Collagen I/III、Fibronectin、LOXを誘導。
- LOX/LOXL:コラーゲン架橋を促進し、組織を硬くする。
- MMP/TIMPバランス異常
- MMP低下 or TIMP上昇 → コラーゲン分解低下 → ECM蓄積。
- 機械刺激(mechanotransduction)
硬くなったマトリックスがさらに線維化を増強する悪循環を形成。
代表的な線維化疾患
- 肝線維化・肝硬変(星細胞活性化)
- 肺線維症(IPF)(TGF-β強活性)
- 腎線維化(間質線維化)
- 心筋線維化(心不全・肥大に伴う)
ポイント
線維化は単なる“ECM増加”ではなく、
コラーゲンの量 × 架橋度 × 配向性(alignment)
すべてが病態に影響します。
3. 老化(Aging)
老化ではコラーゲン量が増える場合と減る場合があり、組織ごとに異なります。
◆ 老化によるコラーゲン変化
● 皮膚:コラーゲン減少・断裂
- 紫外線によるMMP1誘導
- コラーゲン架橋の乱れ(AGEs)
- 弾性の喪失 → シワ形成
● 血管:コラーゲン増加・硬化
- コラーゲンI/III増加
- LOX活性による架橋増加
→ 動脈硬化・高血圧の原因
● 臓器硬化全般
- 腎、心、肺で軽度線維化
→ 加齢関連臓器機能低下
◆ ポイント
老化ではMMPとLOXの両方向の変動が起こり、
“分解されすぎる場所”と“蓄積しすぎる場所”が同時に発生します。
4. がん(Cancer)とコラーゲン
がん組織では、ECMは単なる背景ではなく、腫瘍進展を制御する能動的なプラットフォームです。
◆ がんにおけるコラーゲンの変化
● 1)コラーゲン量増加(Desmoplasia)
- 代表:膵がん、胆道がん、乳がん
- CAF(Cancer-associated fibroblast)がコラーゲンI/III/IVを過剰産生
- 物理的バリアとなり、薬剤送達を阻害
● 2)LOXによる架橋増加 → “硬さ”の獲得
- ECM硬化ががん細胞のYAP/FAKを活性化
→ EMT、浸潤、治療抵抗性を促進
● 3)コラーゲン配向(alignment)
- がん細胞は**“レール状コラーゲン”**に沿って移動する
(TACS:tumor-associated collagen signature)
● 4)MMPによる分解と再構築
- 浸潤のためにMMP2/9などが局所的にコラーゲンIVを分解
- ECMの“隙間”が浸潤経路として利用される
◆ 代表的ながん
- 膵臓がん(最強レベルの線維化)
- 乳がん(TACS研究が盛ん)
- 胆道がん(ユーザーの研究領域とも一致)
- 前立腺がん
5. コラーゲン関連の遺伝病(Hereditary Diseases)
コラーゲン遺伝子(COL1A1, COL3A1, COL4A5など)の変異により、構造異常や生合成障害が発生する。
◆ 主要な遺伝性疾患
● 1)Ehlers-Danlos症候群(EDS)
- COL5A1/5A2、COL3A1など
- 関節過可動、皮膚過伸展、血管脆弱性
● 2)骨形成不全症(Osteogenesis Imperfecta)
- COL1A1/COL1A2変異
- 骨脆弱性、低身長
● 3)Alport症候群
- COL4A3/4/5変異
- 糸球体基底膜の異常 → 腎不全、難聴
● 4)軟骨無形成症 / 軟骨異形成症
- コラーゲンII・XI・IXなどの異常
● 5)表皮水疱症(Dystrophic EB)
- COL7A1
- 皮膚の脆弱化、易損傷性
◆ ポイント
多くの遺伝病は
「三重らせんの形成不全」「架橋異常」「分泌不良」
のいずれかに分類される。
6. まとめ
| カテゴリ | 主因 | コラーゲンの変化 | 主な例 |
|---|---|---|---|
| 線維化 | TGF-β/炎症 | コラーゲン過剰蓄積・架橋増加 | 肝硬変、肺線維症 |
| 老化 | 紫外線/AGEs | 組織に応じて増減 | 皮膚老化、動脈硬化 |
| がん | CAF活性化/LOX/MMP | 配向変化、硬化、集積 | 膵がん、胆道がん |
| 遺伝病 | COL遺伝子変異 | 三重らせん異常、基底膜不全 | EDS、Alport、OI |