多細胞生物において「いつ死ぬか」を正しく制御することは、「どう生きるか」と同じくらい重要です。その中心に位置するのがミトコンドリアです。アポトーシス(プログラム細胞死)は、単なる細胞崩壊ではなく、厳密に制御された分子イベントの連鎖であり、その引き金を引くのがミトコンドリアです。
本記事では、なぜミトコンドリアが細胞死の中枢になったのかを、分子機構レベルで整理します。
アポトーシスには2つの経路がある
アポトーシスには大きく分けて
- 外因性経路(デスレセプター経路)
- 内因性経路(ミトコンドリア経路)
があります。このうち、多くの細胞で決定的なのが内因性(ミトコンドリア)経路です。
DNA損傷、酸化ストレス、栄養欠乏など、さまざまな細胞内ストレスは最終的にミトコンドリアへと集約されます。
BCL-2ファミリー:生と死のバランス装置
ミトコンドリア外膜では、BCL-2ファミリータンパク質が生死のバランスを制御しています。
- 抗アポトーシス因子:BCL-2, BCL-XL, MCL-1
- プロアポトーシス因子:BAX, BAK
- BH3-onlyタンパク質:BIM, BID, PUMA など
これらの相互作用の結果、BAX/BAKが活性化されるかどうかが運命の分かれ目です。
ミトコンドリア外膜透過化(MOMP)
BAXやBAKが活性化されると、ミトコンドリア外膜にオリゴマーを形成し、**外膜透過化(mitochondrial outer membrane permeabilization, MOMP)**が起こります。
MOMPはアポトーシスにおける「不可逆点」とされ、
- cytochrome c
- SMAC/DIABLO
- Omi/HtrA2
などの因子が細胞質へ放出されます。
cytochrome c放出とカスパーゼ活性化
放出されたcytochrome cは、Apaf-1と結合してアポトソームを形成し、
- initiator caspase-9
- executioner caspase-3/7
を段階的に活性化します。
これにより
- DNA断片化
- 細胞骨格崩壊
- 核凝縮
といった典型的なアポトーシス形態が進行します。
なぜミトコンドリアが中枢なのか
ミトコンドリアが細胞死制御の中心にある理由は明確です。
- エネルギー産生の要である
- ROSと代謝状態を感知できる
- 膜電位低下が即座に致命的影響をもつ
つまりミトコンドリアは、「これ以上この細胞を生かすべきか」を総合判断するセンサーなのです。
アポトーシスと疾患・がん
アポトーシス制御の破綻は、
- がん(過剰な生存)
- 神経変性疾患(過剰な細胞死)
の両方につながります。実際、BCL-2阻害薬など、ミトコンドリア経路を標的とした治療薬も臨床応用されています。
次回は、ミトコンドリアの「量と質」を制御する仕組み、融合・分裂・ミトファジーについて解説します。