1980年代後半〜1990年代初頭:分子医学の加速期
1988〜1991年は、
- シグナル伝達分子
- 細胞周期制御
- 遺伝子解析技術
が急速に進展し、
現代分子医学の基盤がほぼ完成した時代
です。
この時期の発見は、
- がん研究
- 再生医療
- 分子診断
に直結しています。
1988年
医薬品と受容体研究
1988年のノーベル生理学・医学賞は
- Sir James W. Black
- Gertrude B. Elion
- George H. Hitchings
に授与されました。
分子標的薬の原型
彼らは
- 受容体を標的とした薬剤設計
- 代謝経路に基づく薬剤開発
を確立しました。
これにより、
経験的医療 → 分子設計医療
へと大きく転換しました。
1989年
プロトオンコジーンの発見
1989年のノーベル生理学・医学賞は
- J. Michael Bishop
- Harold E. Varmus
に授与されました。
がんは遺伝子異常である
彼らは
- Proto-oncogene
を発見し、
がんが
外来因子ではなく自己遺伝子の異常
で起こることを示しました。
1990年
臓器移植と免疫制御
1990年のノーベル生理学・医学賞は
- Joseph E. Murray
- E. Donnall Thomas
に授与されました。
移植医療の確立
彼らは
- 腎移植
- 骨髄移植
を臨床的に成功させ、
免疫抑制を用いた治療を確立しました。
1991年
イオンチャネルの単一分子解析
1991年のノーベル生理学・医学賞は
- Erwin Neher
- Bert Sakmann
に授与されました。
パッチクランプ法
彼らは
- Patch clamp
を開発し、
単一イオンチャネルの電流を測定可能にしました。
分子レベルでの電気生理
これにより、
神経や細胞の機能を
単一分子レベルで直接観測
できるようになりました。
PCR技術の普及(ノーベル賞外だが極めて重要)
1980年代後半には
- Kary Mullis
が開発した
- Polymerase chain reaction
が急速に普及しました(ノーベル賞は1993年)。
DNAを増やす革命技術
PCRにより、
微量のDNAから
大量の遺伝情報を増幅
することが可能になりました。
これは
- 遺伝子診断
- 法医学
- 感染症検査
の基盤技術です。
この4年間の科学的意義
1988〜1991年は、医学が
遺伝子・シグナル・技術
の三つで統合された時代でした。
① がんの分子理解
プロトオンコジーンの発見により、
がんは
遺伝子レベルの疾患
として定義されました。
② 分子標的医療の誕生
受容体・酵素を標的とする薬剤開発が、
現在の創薬の基本となりました。
③ 計測技術の革新
パッチクランプやPCRにより、
生命現象は
直接測定・増幅可能な対象
となりました。
まとめ
| 年 | 受賞者 | 主題 |
|---|---|---|
| 1988 | Blackら | 分子薬理 |
| 1989 | Bishop & Varmus | がん遺伝子 |
| 1990 | Murray & Thomas | 移植医療 |
| 1991 | Neher & Sakmann | パッチクランプ |
1988〜1991年は
分子医学が臨床と完全に接続された時代
でした。
次回予告
次回は
第23回:1992〜1995年
を解説します。
ここでは
- プリオンの確立
- 発生遺伝子(Hox)
- 免疫応答の分子機構
など、生命の設計図と異常の理解がさらに深化していきます。