医学史の転換点となった1907〜1909年
20世紀初頭の医学は大きな転換期を迎えていました。
19世紀後半には
- 細菌の発見
- 感染症の原因解明
が進み、医学は大きく前進しました。
しかし新たな疑問が生まれます。
人間の体はどのように病原体と戦うのか?
この問いに答えようとする研究が進み、
20世紀初頭に
免疫学
という新しい分野が誕生しました。
1907〜1909年のノーベル生理学・医学賞は
まさにその転換期を象徴する研究です。
1907年
マラリア研究の発展
1907年のノーベル生理学・医学賞は
Charles Louis Alphonse Laveran
に授与されました。
彼は
マラリア原虫の発見
によって受賞しました。
マラリアとは何か
マラリアは人類史上最も多くの命を奪った感染症の一つです。
現在でも
- 年間2億人以上が感染
- 数十万人が死亡
しています。
原因となるのは
Plasmodium
という寄生虫です。
当時の医学の常識
19世紀半ばまで、マラリアの原因は不明でした。
当時は
- 悪い空気
- 沼地の毒気
などが原因と考えられていました。
実際
マラリア(malaria)
という言葉自体が
イタリア語の
mal aria(悪い空気)
から来ています。
Laveranの発見
1880年、Laveranはアルジェリアで軍医として働いていました。
そこで彼は、マラリア患者の血液を顕微鏡で観察します。
すると赤血球の中に
奇妙な生物
が存在することを発見しました。
それは
- 動く
- 形を変える
微小な生物でした。
これは
人間で初めて発見された寄生原虫
でした。
原虫による感染症
Laveranの発見は非常に重要でした。
それまで感染症の原因は
- 細菌
と考えられていました。
しかし彼の研究により
原虫(protozoa)
という新しい病原体の存在が明らかになったのです。
この発見はその後
- トリパノソーマ症
- リーシュマニア症
など多くの寄生虫疾患研究につながりました。
マラリア研究の発展
その後、研究はさらに進みます。
1902年には
Ronald Ross
が
蚊による感染
を証明しました。
つまり
マラリア感染の流れは
蚊
↓
人
↓
蚊
というサイクルで起こることがわかったのです。
この発見は
感染症疫学
の大きな発展につながりました。
1908年
免疫学の誕生
1908年のノーベル生理学・医学賞は
2人の研究者に授与されました。
- Élie Metchnikoff
- Paul Ehrlich
です。
彼らは
免疫の仕組み
を解明しました。
この研究によって
免疫学
という新しい学問分野が誕生しました。
免疫とは何か
免疫とは
体が病原体から身を守る仕組み
です。
現在では
免疫は
- 自然免疫
- 獲得免疫
に分類されます。
この2つの概念は、まさに
MetchnikoffとEhrlichの研究から生まれました。
Metchnikoffと食細胞
Metchnikoffは
食細胞(phagocyte)
を発見しました。
これは
細菌などを
食べて破壊する細胞
です。
彼はヒトデの幼生を研究しているとき、
異物が入ると細胞が集まりそれを取り囲むことに気づきました。
この細胞が
- 細菌
- 異物
を取り込んで分解することを発見しました。
食作用
この現象は
食作用(phagocytosis)
と呼ばれます。
現在知られている食細胞には
- マクロファージ
- 好中球
などがあります。
これらの細胞は
自然免疫の中心
を担っています。
Ehrlichと抗体
一方で
Paul Ehrlich
は
抗体
の研究を行いました。
彼は
血清の中に存在する
毒素を中和する物質
の存在を研究しました。
この物質が
現在の
抗体(antibody)
です。
側鎖説
Ehrlichは
側鎖説(side-chain theory)
という理論を提唱しました。
これは
細胞表面に
特定の毒素に結合する構造
が存在するという考えです。
毒素が結合すると
その構造が大量に作られ
血液中に放出される。
これが
抗体
であるというモデルでした。
免疫学の二大理論
当時の免疫学には
2つの考え方がありました。
Metchnikoff
細胞が病原体を食べる
Ehrlich
血清中の抗体が毒素を中和する
この2つは
長い間
対立する理論
と考えられていました。
現代免疫学の理解
現在では
両方とも正しいことがわかっています。
免疫には
- 食細胞による自然免疫
- 抗体による獲得免疫
の両方が存在します。
つまり
MetchnikoffとEhrlichは
免疫の2つの側面
をそれぞれ発見していたのです。
1909年
甲状腺研究の進歩
1909年のノーベル医学賞は
Emil Theodor Kocher
に授与されました。
彼は
甲状腺手術の研究
で受賞しました。
甲状腺の役割
19世紀まで
甲状腺の役割はよくわかっていませんでした。
Kocherは
甲状腺を完全に切除した患者が
重い症状を示すことを発見しました。
例えば
- 成長障害
- 知能低下
- 代謝低下
などです。
これは現在
甲状腺機能低下症
として知られています。
内分泌学の誕生
Kocherの研究は
ホルモンの概念
の確立につながりました。
その後
甲状腺は
- 代謝調節
- 発達
に重要な役割を持つことがわかりました。
これは
内分泌学
という新しい分野の誕生につながりました。
この時代の医学の特徴
1907〜1909年の医学研究には共通点があります。
それは
体の防御システムの理解
です。
この時代に
- 寄生虫学
- 免疫学
- 内分泌学
という重要な分野が誕生しました。
現代医学への影響
この時代の研究は
現在の医療にも深く関わっています。
免疫学
ワクチン
抗体医薬
免疫治療
寄生虫学
マラリア対策
熱帯医学
内分泌学
甲状腺疾患
ホルモン治療
つまり
現代医学の多くの分野は
20世紀初頭の研究
から始まったのです。
まとめ
1907〜1909年のノーベル生理学・医学賞は
医学史において非常に重要な時代でした。
1907
マラリア原虫の発見(Laveran)
1908
免疫学の誕生(Metchnikoff & Ehrlich)
1909
甲状腺研究(Kocher)
この時代の研究は
- 免疫学
- 寄生虫学
- 内分泌学
という医学の重要分野を確立しました。
次回予告
次回は
1910〜1913年
のノーベル生理学・医学賞を解説します。
ここでは
- 核酸研究の始まり
- アナフィラキシー
- 前庭系研究
など
分子生物学と免疫研究の基礎
が登場します。