⚠️この記事はあくまで私個人の医師としての備忘録です。内容の正確性・最新性を保証するものではありません。臨床判断は必ず上級医や最新ガイドラインに基づいて行ってください。この記事の情報によって生じた損害について、筆者は一切の責任を負いません。
はじめに:便秘は“QOL”を下げる
高齢者の外来診療で、便秘は実は非常に多い悩みです。食事・運動量の低下、薬剤(抗コリン薬、Ca拮抗薬、オピオイドなど)、加齢による腸管運動の低下など、さまざまな要因が複合しています。
本記事では、そんな高齢者の便秘に対して実際によく使う下剤の種類・機序・使い分けの考え方を、若手医師向けに整理しておきます。
目次
- 下剤の分類と機序(5大分類)
- 各分類の代表薬と特徴
- 高齢者での使い分けのポイント
- よくある処方パターン
- 補足:便秘の“見逃してはいけない原因”
1. 下剤の5大分類と作用機序
便秘治療薬は、作用機序ごとに以下のように分類されます:
分類 | 作用機序 | イメージ |
---|---|---|
① 浸透圧性下剤 | 腸管内に水分を引き込む | 柔らかくする・かさを増やす |
② 刺激性下剤 | 腸の神経を刺激して動かす | 腸にムチを打つ感じ |
③ 膨張性下剤 | 食物繊維で内容物を増やす | 物理的に刺激 |
④ 潤滑性下剤 | 便の滑りを良くする | 便の通過をスムーズに |
⑤ 上皮機能変容薬 | 腸上皮からの水分分泌を促す | 新しい作用機序(例:ルビプロストン) |
2. 各分類の代表薬と特徴
① 浸透圧性下剤
薬剤名 | 商品例 | 特徴 |
---|---|---|
酸化マグネシウム | マグミット® | 定番。効果穏やか。腎機能に注意 |
ラクツロース | モニラック® | 小腸で分解→乳酸→浸透圧↑。甘い |
PEG製剤 | モビコール® | 味が改善され、小児・高齢者に◎ |
👉 第一選択にしやすい。ただしCKDではMg中毒に注意。
② 刺激性下剤
薬剤名 | 商品例 | 特徴 |
---|---|---|
センノシド | プルゼニド® | 大腸刺激性。就寝前内服→翌朝効果 |
ビサコジル | テレミンソフト® | 座薬でも使用可 |
ピコスルファートナトリウム | ラキソベロン® | 内服で腸内細菌により活性化 |
👉 即効性ありだが耐性・腹痛・習慣性に注意。連用は避けるのが原則。
③ 膨張性下剤(食物繊維)
薬剤名 | 商品例 | 特徴 |
---|---|---|
ポリカルボフィルカルシウム | コロネル® | 水分吸収して便量UP |
プランタゴ・オバタ種皮 | メタムシル® | 天然食物繊維 |
👉 高齢者には誤嚥や水分制限がある場合は使いにくいことも。
④ 潤滑性下剤
薬剤名 | 商品例 | 特徴 |
---|---|---|
ジオクチルソジウムスルホサクシネート | グリセリン浣腸®に併用 | 便表面を滑らかに。補助的 |
👉 高齢者にはグリセリン浣腸や座薬の補助として。
⑤ 上皮機能変容薬(新しい下剤)
薬剤名 | 商品例 | 特徴 |
---|---|---|
ルビプロストン | アミティーザ® | Clチャネル刺激→水分分泌↑ |
リナクロチド | リンゼス® | グアニル酸シクラーゼC刺激 |
エロビキシバット | グーフィス® | 胆汁酸再吸収阻害 → 水分分泌↑ |
👉 比較的新しい薬剤。腸管麻痺タイプの便秘にも使えるが、保険適応や副作用(下痢・腹痛)に注意。
3. 高齢者での使い分けポイント
高齢者では以下のようなリスクを考慮して使い分けを行います:
注意点 | 解説 |
---|---|
腎機能 | 酸化マグネシウムはCKDでは使用量に注意(Mg中毒) |
誤嚥リスク | 食物繊維系(膨張性)は窒息・腸閉塞に注意 |
脱水リスク | 浸透圧性で下痢が強すぎると脱水・電解質異常の懸念 |
習慣性 | 刺激性下剤は原則短期。ルーチン化しない |
ADL低下 | 座薬・浣腸が有効なケースも(レスキュー的に) |
4. 処方パターン例
例1:CKDあり・軽度の便秘
→ モビコール® を1日1包から開始
例2:夜間に自然排便させたい
→ 就寝前にプルゼニド® 1錠(短期使用)
例3:難治性便秘で生活影響大
→ アミティーザ® or リンゼス® を追加検討
例4:一時的に強く出したい(レスキュー)
→ テレミンソフト®坐薬 or グリセリン浣腸
5. 補足:便秘の“見逃してはいけない原因”
薬剤処方前に、以下のような便秘の原因疾患や薬剤性はしっかりチェックを。
- 原因疾患:大腸がん、腸閉塞、パーキンソン病、甲状腺機能低下症など
- 薬剤性便秘:Ca拮抗薬、抗コリン薬、オピオイド、抗精神病薬、鉄剤など
- 生活習慣:水分摂取、食物繊維、運動習慣の低下
まとめ
高齢者の便秘は、QOLに大きく影響するだけでなく、せん妄・腹部症状・腸閉塞リスクとも密接に関係しています。
「下剤を出す=便を出す」ではなく、**なぜ詰まっているのか? どんな便か?**を評価して、使い分けていくことが重要です。