【第21章】多細胞生物の発生とは何か?細胞の連携による生命の創造プロセスを探る

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生命の設計図は、たった1個の受精卵に内包されています。そこから細胞が分裂し、異なる運命を選びながら、皮膚や神経、筋肉、内臓などの多様な組織が形作られていきます。この驚異的なプロセスが「発生(development)」です。

細胞分化のしくみ

発生の核となるのが「細胞分化(cell differentiation)」。同一のDNA情報を持ちながらも、異なる遺伝子が発現することで、細胞は異なる機能を持つようになります。この制御の中心にあるのが「転写因子」や「エピジェネティクス的修飾」です。

分化はランダムなものではなく、厳密に制御された空間・時間的プログラムに従って進行します。つまり、どの遺伝子が「いつ・どこで」発現するかが生命の形態を決定するのです。

モルフォゲンと位置情報

モルフォゲン(morphogen)」は、濃度勾配によって周囲の細胞に異なる命運を与える物質です。代表的なモルフォゲンには Shh(Sonic Hedgehog)BMP(Bone Morphogenetic Protein) などがあります。

これらは胚の中で局所的に分泌され、距離に応じて細胞に異なる遺伝子発現を誘導することで、左右対称性や体の軸の決定といった形態形成を担います。

幹細胞と再生

発生の過程では「幹細胞(stem cells)」が重要な役割を果たします。これらの細胞は、自己複製と多分化能という2つの特性を持ち、様々な細胞系譜へと発展していきます。

胚性幹細胞(ES細胞)はほぼすべての細胞型に分化可能であり、発生全体を支える存在です。一方、成体幹細胞は特定の組織に限定された分化能を持ち、再生や恒常性の維持に寄与します。

プログラムされた発生と細胞の運命決定

発生とは「プログラムされたカオス」とも言えるプロセスです。細胞の「運命決定(fate determination)」には以下のような戦略があります:

  • 細胞自律的決定(autonomous specification): 細胞内に存在する局所的なmRNAやタンパク質による決定。
  • 誘導的決定(inductive specification): 隣接する細胞からのシグナルによって運命が決まる。
  • 接触依存的決定(contact-dependent signaling): 直接接触による情報伝達(例:Notch-Delta経路)。

これらの情報の統合が、複雑な体構造を時系列的に正確に組み立てる鍵となっています。

発生と進化の接点

興味深いのは、「発生と進化(Evo-Devo)」のつながりです。発生を制御する基本的な遺伝子(例:Hox遺伝子)は、進化的に保存されており、多くの生物に共通の形態形成メカニズムがあることが分かっています。つまり、進化は「発生プログラムの修正」によって起きているのです。


参考文献および出典明記:
本記事の内容は『Molecular Biology of the Cell(第6版)』(Alberts著)に基づき、教育目的で要約・解説しています。原著における詳細な図版・文献・理論的背景は、該当書籍をご参照ください。著作権に配慮し、引用は最小限にとどめています。

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