【第22章】幹細胞と組織再生のメカニズム — 生命の持続を支える細胞の力

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多細胞生物は、特定の機能を担うさまざまな**専門化された組織(specialized tissues)**から成り立っています。これらの組織は、生命活動の中で傷ついたり老化したりしますが、それを修復し続けるために、**幹細胞(stem cells)**の存在が不可欠です。


幹細胞の基本的特徴

  • 自己複製能:自分と同じ幹細胞を作り出し、幹細胞の数を維持する。
  • 多分化能:複数の種類の専門細胞に分化できる能力。

幹細胞は、体内の特定の場所に存在し、**「幹細胞ニッチ」**と呼ばれる微小環境によってその状態が制御されています。


組織の種類と幹細胞の役割

  • 上皮組織:皮膚や消化管など、常に細胞が入れ替わる組織では幹細胞の活発な分裂が必要です。例えば、腸の絨毛の基底部に幹細胞が存在し、新しい上皮細胞を供給しています。
  • 血液組織:骨髄にある造血幹細胞は、多様な血液細胞に分化し、血液の恒常性を保ちます。
  • 筋肉や神経組織:再生能力は限られますが、筋肉幹細胞(衛星細胞)や神経幹細胞が損傷修復に関与しています。

幹細胞ニッチとその調節

幹細胞の機能は、周囲の支持細胞やECM、局所的なシグナルによって厳密に制御されます。この環境を幹細胞ニッチと呼びます。

ニッチ内では、WntシグナルやNotchシグナルなどが幹細胞の自己複製や分化を調整し、組織の恒常性を保ちます。


組織再生のプロセス

組織が傷つくと、幹細胞は活性化されて分裂・分化を促進し、損傷部分を修復します。再生の効率や能力は組織によって異なり、皮膚や肝臓は高い再生能力を持つ一方で、神経組織などは制限されます。


幹細胞研究の意義と応用

幹細胞は再生医療や組織工学の基盤として期待されています。人工多能性幹細胞(iPS細胞)技術の登場により、患者自身の細胞を用いた治療や病態モデルの作製が可能になりました。


まとめ

幹細胞とそのニッチは、専門化した組織の維持と修復を支える生命の基盤です。これらの仕組みの理解は、老化のメカニズム解明や新しい治療法開発に重要な手がかりとなります。


引用・参考文献について
本記事は『Molecular Biology of the Cell(第6版)』第22章を元に教育目的で要約・解説しています。

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