高齢者のうつ病には慎重な薬物治療が求められる
高齢者におけるうつ病は、身体疾患や認知機能低下との鑑別が難しく、かつ非定型的な症状(食欲低下・倦怠感・不眠・焦燥感など)で現れることが多いため、診断・治療ともに専門的な判断が必要です。
特に薬物治療は、加齢に伴う薬物動態の変化、併存疾患の多さ、ポリファーマシーなどを踏まえ、一般成人とは異なるアプローチが求められます。
抗うつ薬選択の基本原則
- 副作用プロファイルの把握
- 高齢者は副作用に対する感受性が高いため、初期は少量から開始し、ゆっくり増量(”start low, go slow”)が原則です。
- 例:便秘、口渇、起立性低血圧、せん妄、転倒リスクなどに注意が必要です。
- 薬物相互作用を避ける
- 肝代謝酵素(CYP系)を阻害する薬剤や、QT延長のリスクがある薬剤には特に注意。
- 他の処方薬との相互作用が少ない薬を選択することが重要です。
- 併存疾患を考慮
- 心疾患、認知症、糖尿病、前立腺肥大、緑内障などを持つ高齢者では、抗うつ薬による悪化の可能性があるため慎重な選択が必要です。
よく使われる抗うつ薬と特徴
薬剤群 | 代表薬剤 | 特徴 | 注意点 |
---|---|---|---|
SSRI | セルトラリン、エスシタロプラム | 比較的安全性が高く、高齢者でも第一選択肢 | 低Na血症、出血傾向(抗血栓薬併用時) |
NaSSA | ミルタザピン | 食欲不振や不眠を伴ううつに有効 | 鎮静、体重増加に注意 |
SNRI | デュロキセチン | 慢性疼痛や神経因性疼痛を伴う場合に有用 | 血圧上昇や嘔気に注意 |
三環系 | アミトリプチリン、イミプラミンなど | 効果は強力だが副作用が多いため避けることが多い | 抗コリン作用、心毒性、せん妄リスク |
治療効果の評価とフォローアップ
- 効果判定には4〜6週間かかるため、すぐに中止・変更しないことが大切です。
- 家族や介護スタッフからの情報収集を通じて、日常生活の変化や副作用の兆候を把握することが有効です。
- 抑うつ症状の改善とともに、活動性・食欲・表情の変化を観察します。
非薬物的介入との併用
薬物療法はあくまで一つの手段であり、以下の非薬物的介入との併用が有効です。
- 回想法や行動活性化療法
- 家族や周囲との交流機会の確保
- 認知症やBPSDとの鑑別・評価
まとめ:高齢者のうつに抗うつ薬を使う際のポイント
- SSRIまたはNaSSAを第一選択とし、副作用に応じて調整する
- 併存疾患・併用薬の確認を必ず行う
- 非薬物的アプローチと併用し、全人的な支援を意識する
法的配慮に関する注記
本記事は、現場で役立つ一般的な情報提供を目的としており、特定の診断・治療行為を推奨するものではありません。実際の医療判断は、必ず医師等の専門家による診察・評価に基づいて行ってください。