【第23章】病原体と感染 — 細胞レベルで起こる攻防戦

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1. 病原体とは

**病原体(pathogen)**は、宿主に害を与える微生物や分子寄生体を指します。主な種類は以下の通りです。

  • ウイルス:宿主細胞に侵入し、複製装置を利用して自己を増殖。
  • 細菌:一部は病原性を持ち、毒素や酵素を分泌して組織にダメージを与える。
  • 真菌・原虫:真核生物として、寄生や組織破壊を行うものも存在。
  • 寄生虫:多細胞性で、長期間宿主にとどまるケースもある。

2. 感染のステップ

感染は段階的に進行します。多くの病原体は以下のステップを経て病気を引き起こします。

  1. 宿主への侵入 — 皮膚の損傷や粘膜から侵入。
  2. 付着 — 特定のレセプターに結合して細胞に取りつく。
  3. 侵入 — エンドサイトーシスや膜融合などで細胞内へ。
  4. 増殖 — 宿主の代謝・合成系を利用して複製。
  5. 拡散 — 血流やリンパを介して他の組織へ広がる。
  6. 免疫回避 — 宿主防御システムを回避・抑制。

3. ウイルス感染の分子機構

ウイルスは特に宿主依存性が高く、そのライフサイクルは分子レベルで精密です。

  • 吸着:ウイルス表面のタンパク質が宿主細胞の特定の受容体に結合。
  • 侵入と脱殻:カプシドが外れ、ゲノムが細胞質または核に放出。
  • 複製:RNAウイルスはRNA依存性RNAポリメラーゼ、DNAウイルスは宿主のDNAポリメラーゼを利用。
  • 組み立てと放出:新しいビリオンが組み立てられ、細胞から放出される(溶解やエキソサイトーシス)。

4. 細菌の感染戦略

病原性細菌は以下のような戦略をとります。

  • 毒素の産生(例:コレラ毒素、破傷風毒素)
  • 宿主細胞への侵入(例:サルモネラ、リステリア)
  • 免疫回避(例:莢膜形成による食作用回避)
  • バイオフィルム形成による長期定着

5. 宿主の防御機構

宿主は多層的な防御を持っています。

  • 物理的障壁:皮膚、粘膜、繊毛
  • 自然免疫:食作用(マクロファージ、好中球)、補体系、自然免疫受容体(TLRなど)
  • 獲得免疫:抗体による中和、キラーT細胞による感染細胞破壊、メモリー細胞の形成

6. 病原体の免疫回避戦略

  • 抗原変異(例:インフルエンザウイルスの抗原シフト/ドリフト)
  • MHC発現抑制(例:ヘルペスウイルス)
  • 宿主免疫細胞の直接破壊(例:HIV)

まとめ

病原体と宿主の関係は「軍拡競争」に似ており、病原体は感染・拡散の戦略を進化させ、宿主はそれに対抗する防御を発達させてきました。分子レベルでの理解は、感染症の予防・治療の鍵となります。

参考文献および出典明記:
本記事の内容は『Molecular Biology of the Cell(第6版)』(Alberts著)に基づき、教育目的で要約・解説しています。原著における詳細な図版・文献・理論的背景は、該当書籍をご参照ください。著作権に配慮し、引用は最小限にとどめています。

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