【第24章】適応免疫系 — 分子レベルでの精密防御システム

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1. 適応免疫の特徴

適応免疫(adaptive immunity)は、自然免疫(innate immunity)に比べて特異性記憶を持つのが大きな特徴です。

  • 特異性:特定の抗原(antigen)に対して反応する。
  • 多様性:膨大な数の抗原に対応可能。
  • 記憶:一度出会った抗原に対して再感染時に迅速かつ強力に反応。

2. 主なプレイヤー

適応免疫は**リンパ球(lymphocyte)**を中心に展開されます。

  • B細胞(B lymphocytes):抗体(immunoglobulin)を産生。
  • T細胞(T lymphocytes):細胞性免疫を担う。
    • ヘルパーT細胞(CD4⁺):他の免疫細胞を活性化。
    • キラーT細胞(CD8⁺):感染細胞を直接破壊。

3. 抗原認識の分子メカニズム

B細胞受容体(BCR)

  • 構造:膜結合型免疫グロブリン(IgMやIgD)とシグナル伝達分子Igα/Igβ。
  • 認識対象:タンパク質、糖、脂質など立体構造そのもの。

T細胞受容体(TCR)

  • 構造:α鎖とβ鎖から成るヘテロ二量体。
  • 認識対象:MHC(主要組織適合複合体)に提示されたペプチド抗原。

4. 抗原提示とMHC

  • MHCクラスI:すべての有核細胞が発現。細胞内抗原(ウイルスや異常タンパク質)を提示し、CD8⁺T細胞を活性化。
  • MHCクラスII:抗原提示細胞(樹状細胞、マクロファージ、B細胞)が発現。細胞外抗原を提示し、CD4⁺T細胞を活性化。

5. 多様性の創出 — V(D)J組換え

抗原受容体の多様性は、遺伝子再構成によって生まれます。

  • B細胞T細胞は、それぞれの受容体遺伝子をV(variable)、D(diversity)、J(joining)セグメントのランダムな組み合わせで再構築。
  • さらに**接合部多様性(junctional diversity)**や体細胞高頻度変異(somatic hypermutation)によって多様性を増強。

6. クローン選択と免疫記憶

  • 抗原に一致する受容体を持つリンパ球だけが活性化(クローン選択説)。
  • 活性化リンパ球は増殖し、エフェクター細胞(実働細胞)と記憶細胞に分化。
  • 記憶細胞は長期にわたって生存し、次回の抗原侵入時に迅速に反応。

7. 効果器機構

体液性免疫(B細胞由来)

  • 抗体が抗原に結合し、中和・オプソニン化・補体活性化を引き起こす。

細胞性免疫(T細胞由来)

  • CD8⁺T細胞が感染細胞を直接破壊。
  • CD4⁺T細胞がサイトカインを放出し、マクロファージやB細胞を活性化。

8. 自己と非自己の区別

  • 胸腺や骨髄での負の選択により、自己抗原に強く反応するリンパ球は排除。
  • この仕組みが破綻すると自己免疫反応のリスクが生じる。

まとめ

適応免疫系は、遺伝子レベルで作り出した多様な受容体を使い、膨大な種類の病原体を認識して記憶する生体の分子防衛システムです。その精緻な仕組みは、進化の過程で獲得された「カスタムメイドの防御網」といえます。

参考文献および出典明記:
本記事の内容は『Molecular Biology of the Cell(第6版)』(Alberts著)に基づき、教育目的で要約・解説しています。原著における詳細な図版・文献・理論的背景は、該当書籍をご参照ください。著作権に配慮し、引用は最小限にとどめています。

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