超高齢者の慢性疼痛に対する治療戦略:整形疾患や帯状疱疹後神経痛にどう対応するか?

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はじめに

超高齢社会の日本では、慢性疼痛を抱える高齢者が非常に多く、特に整形外科的な変性疾患(変形性関節症、脊柱管狭窄症など)や、**帯状疱疹後神経痛(PHN)**が主な原因となっています。
加齢に伴う腎機能・肝機能の低下、多剤併用、フレイル、認知機能の影響を考慮しながら、安全かつ効果的に疼痛管理を行う必要があります。


慢性疼痛のタイプ分類

超高齢者の慢性疼痛は以下の2タイプに大別されます:

  • 侵害受容性疼痛(変形性膝関節症・圧迫骨折など)
  • 神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛・脊髄障害・糖尿病性神経障害など)

この分類によって治療薬の選択も異なります。


非薬物療法の基本

超高齢者では、まず以下の非薬物療法をベースにすることが重要です:

  • 物理療法(温罨法、電気刺激、超音波療法)
  • 運動療法(関節可動域・筋力維持を目的)
  • 作業療法(日常生活動作の支援)
  • 心理的アプローチ(慢性痛と抑うつや不安は密接に関連)

可能であれば、疼痛専門医や理学療法士との連携を図るのが理想です。


薬物療法の選択と使い分け

1. アセトアミノフェン

第一選択薬として推奨。安全性が高く、軽度~中等度の痛みに有効。
・例:300〜500 mg/回を1日2〜3回
※肝障害に注意(用量制限が必要なケースも)


2. NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)

整形疾患の痛みに有効だが、腎機能・消化管障害・心血管リスクに注意。
・原則短期間・最低用量で使用。
・貼付剤(湿布・パップ)は全身性の副作用が少ないとされるが、腎リスクはゼロではない。


3. プレガバリン/ミロガバリン

帯状疱疹後神経痛や坐骨神経痛など神経障害性疼痛に有効。
・腎機能に応じた用量調整が必須
・副作用(ふらつき、浮腫、眠気)で転倒リスク増大 → 初回は低用量から慎重に導入。


4. 三環系抗うつ薬(アミトリプチリンなど)

神経障害性疼痛に対する選択肢として有用。
・効果はあるが、口渇・便秘・尿閉・せん妄など抗コリン作用に注意。
・使用するなら10mg以下から極少量で導入し、状態を見ながら調整。


5. トラマドール

侵害受容性と神経障害性の両方に有効な弱オピオイド。
・セロトニン再取り込み阻害作用によりめまい・吐き気・せん妄のリスク。
・腎排泄されるため腎機能低下時は要注意。
・**アセトアミノフェンとの配合剤(トラムセット)**もあるが、便秘対策を併用するのが望ましい。


6. 漢方薬

症例によっては抑肝散芍薬甘草湯疎経活血湯などを併用。
・科学的エビデンスが乏しい面もあるが、副作用が比較的少なく、疼痛緩和に寄与するケースあり。
・認知症や不安を合併する高齢者で抑肝散加陳皮半夏などの応用も検討されるが、効果には個人差。


使用時の注意点(超高齢者特有の視点)

注意項目解説
腎機能の低下NSAIDs・プレガバリンは要注意。eGFRに基づいて投与量調整を行う。
多剤併用(ポリファーマシー)相互作用による副作用増加のリスクがあるため、定期的な薬剤見直しが重要。
認知症・フレイル鎮静・せん妄・転倒のリスクが高く、非薬物療法を優先すべき場面が多い。

多職種連携の重要性

疼痛が慢性化している超高齢者では、医師、看護師、薬剤師、リハビリスタッフ、介護職などとの連携が不可欠です。特に在宅医療・施設医療では全体のケア方針を共有することが安全管理につながります。


まとめ:個別性に応じた「バランスの良い」治療を

超高齢者の慢性疼痛管理では、「痛みを取ること」と「生活の質を保つこと」のバランスが大切です。薬に頼りすぎず、非薬物療法と組み合わせ、最小限の薬で最大限の効果を狙う戦略が求められます。


<注意事項>

この記事は医療専門職による実務経験と文献に基づき一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の治療法を推奨するものではありません。治療の判断は、医師等の医療専門職による診察と指示に従ってください。

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