胚盤胞形成とは
卵割を経て、桑実胚(morula)は内部に空洞をつくり始めます。この空洞を 胞胚腔(blastocoel) と呼び、胞胚腔をもつ胚を 胚盤胞(blastocyst) と呼びます。
胚盤胞の構造
- 内部細胞塊(inner cell mass, ICM)
将来、胎児本体を形成する細胞群。幹細胞研究でいう「胚性幹細胞(ES細胞)」はここから樹立される。 - 栄養外胚葉(trophoblast)
将来、胎盤を形成し、母体との栄養交換や免疫調整に関わる。 - 胞胚腔(blastocoel)
内部の液体を満たした空洞で、発生の次の段階を準備する。
このように、胚盤胞は「胎児になる細胞」と「胎盤になる細胞」が明確に分かれる最初の段階です。
着床とは
胚盤胞は子宮に到達し、着床(implantation) を開始します。これは母体と胚の最初の相互作用です。
着床のステップ
- 付着(apposition)
胚盤胞が子宮内膜に接触する。 - 接着(adhesion)
栄養外胚葉が子宮内膜上皮に強固に結合する。 - 浸潤(invasion)
栄養外胚葉が子宮内膜に侵入し、母体の血管とのつながりを作り始める。
この過程で子宮内膜は**着床窓(implantation window)**と呼ばれる限られた期間に受容能を持ちます。
着床の意義
- 胚が母体から栄養を得るための必須ステップ
- 胎盤形成の始まりであり、妊娠の成立に不可欠
- 着床の失敗は不妊や流産の大きな原因となる
胚盤胞と臨床応用
- **体外受精(IVF)**では、胚盤胞まで培養してから移植することが一般的
- 着床のメカニズムは、不妊治療や流産予防の研究に直結
- iPS細胞・ES細胞研究とも深く関連
まとめ
胚盤胞形成と着床は、受精卵が母体と「つながる」最初のプロセスです。
- 胚盤胞では胎児と胎盤の運命が分かれる
- 着床は母体と胚の緊密な相互作用であり、妊娠成立のカギを握る
次回の予告
次の記事では「原腸形成と胚葉分化」を取り上げます。ここから胚は三胚葉へと分化し、体の設計図が描かれていきます。
👉 この記事は「発生学シリーズ」の第3回です。第1回「発生学の概要」、第2回「受精と卵割」と合わせて読むことで、発生の全体像をより深く理解できます。