原腸形成とは
**原腸形成(gastrulation)**とは、胚盤胞から三胚葉が形成される過程のことです。ここで初めて、胚は単なる細胞の集合体から「身体の設計図」を持つ存在へと変化します。
原腸形成の最大の特徴は、細胞が大規模に移動し、層構造をつくることです。
三胚葉の形成
原腸形成の結果、以下の三つの胚葉が形成されます。
- 外胚葉(ectoderm)
表皮、神経系、感覚器の起源 - 中胚葉(mesoderm)
筋肉、骨、血管、心臓、腎臓など体の支持構造と循環系 - 内胚葉(endoderm)
消化管、肝臓、膵臓、肺など内臓器官の起源
このように、三胚葉からすべての臓器や組織が分化するため、原腸形成は「発生学の分岐点」といえます。
原条と細胞移動
原腸形成の中心的な構造が 原条(primitive streak) です。
- 胚の背側に原条が出現
- 細胞が原条を通って内部へ移動
- その結果、外胚葉・中胚葉・内胚葉が配置される
細胞が位置を変えるこのダイナミックな動きは、後の器官形成に直接つながります。
原腸形成の意義
- 身体の前後・左右・背腹の軸が確立する
- 細胞の運命が決まる(神経系になるのか、筋肉になるのかなど)
- 器官形成の基盤ができる
つまり、原腸形成は「細胞の運命を決めるターニングポイント」です。
臨床との関連
- 原腸形成の異常は、先天奇形や神経管閉鎖不全などの原因となる
- 幹細胞研究では、体外で三胚葉分化を誘導する実験系が多く用いられる
- がん研究でも、細胞の可塑性や移動の仕組みを理解する上で参考にされる
まとめ
- 原腸形成は、胚が三胚葉に分化する決定的なイベント
- 三胚葉からすべての組織や臓器が形成される
- 身体の基本的な軸と設計図がここで確立する
次回の予告
次の記事では「神経管形成(Neurulation)」を解説します。原腸形成で生まれた外胚葉から神経系が形づくられる過程を追っていきます。
👉 本記事は「発生学シリーズ」の第4回です。第1回「発生学の概要」、第2回「受精と卵割」、第3回「胚盤胞形成と着床」とあわせて読むことで、発生の流れを体系的に理解できます。