神経管形成とは
神経管形成(neurulation)は、外胚葉の一部が神経系へと分化し、脳や脊髄のもととなる神経管をつくる過程です。原腸形成で三胚葉ができた後、外胚葉は大きく「表皮」と「神経系」に分かれます。
この段階は、**「外胚葉の二重性」**が顕著に表れる時期といえます。
神経管形成のステップ
- 神経板の形成
 外胚葉の中央部が肥厚して**神経板(neural plate)**となる。
- 神経ひだの形成
 神経板の両端が持ち上がり、**神経ひだ(neural fold)**を形成する。
- 神経管の閉鎖
 神経ひだが融合し、管状の構造である**神経管(neural tube)**が完成する。これが脳と脊髄の原基になる。
- 神経堤細胞の出現
 閉鎖過程で神経管の両側から**神経堤細胞(neural crest cells)**が遊走する。これらは末梢神経系や顔面骨格、色素細胞など多様な組織をつくる。
神経管形成の意義
- 中枢神経系(脳・脊髄)の起源
- 末梢神経系・顔面形成・メラノサイトなど多彩な細胞の供給源(神経堤細胞)
- 胚の背側構造が完成し、前後軸・左右軸との統合が進む
臨床との関連
神経管形成の異常は臨床的に重要です。
- 神経管閉鎖不全(Neural tube defects, NTDs)
 例:二分脊椎(spina bifida)、無脳症(anencephaly)
- 葉酸不足がNTDsのリスク因子であり、妊娠前からの葉酸摂取が推奨されている
- 神経堤細胞の異常は、先天性心疾患や顔面形成異常につながることがある
まとめ
- 神経管形成は、外胚葉から神経系が形づくられる過程
- 神経管は脳と脊髄に発達し、神経堤細胞は多様な細胞系譜に分化する
- 発生異常は先天奇形や神経疾患の原因となるため、基礎医学・臨床医学の両面で重要
次回の予告
次の記事では「器官形成(Organogenesis)」を取り上げます。三胚葉がそれぞれ具体的な臓器へと分化していくダイナミックなプロセスを解説します。
👉 本記事は「発生学シリーズ」の第5回です。これまでの流れ(概要 → 受精と卵割 → 胚盤胞形成と着床 → 原腸形成と胚葉分化)とあわせて読むことで、発生学の基礎が体系的に理解できます。
