心血管系の起源
心臓と血管系は中胚葉由来で、胚発生のきわめて早期から形成されます。酸素や栄養の輸送に不可欠なため、ヒトの臓器の中でも最も早く機能を開始するのが心血管系です。
心臓の発生タイムライン
- 第3週
- 前方内臓側中胚葉に「心臓原基領域」が出現。
- 心臓前駆細胞が集まり、心内膜細胞と心筋細胞へ分化。
- 胚体屈曲により左右の心臓領域が融合 → 原始心管(primitive heart tube) 形成。
- 第4週
- 原始心管が拍動を開始(ヒト心臓の初収縮はおよそ22日目)。
- 心管がルーピング(心臓ループ形成)して、将来の心房・心室の位置関係が決定。
- 中隔形成が始まり、心房と心室の区画化が進む。
- 第5〜6週
- 心房中隔・心室中隔の形成が進む。
- 心内膜床の形成により房室管が左右に分かれる。
- 大血管(動脈幹と円錐幹)がスパイラル状に分離し、大動脈と肺動脈が成立。
- 第7〜8週
- 四腔心が完成し、成人心臓の基本構造が成立。
- 弁の原基が形成され、血流の一方向性が確立。
血管と造血の発生
- 第3週
- 卵黄嚢の血島(blood island)で最初の造血が起こる(一次造血)。
- 内皮細胞と造血前駆細胞がここから派生。
- 第4〜5週
- 胎児本体の肝臓が造血の主座となる(二次造血)。
- 動脈系では左右の大動脈から動脈弓が形成され、最終的に大動脈弓・頸動脈・鎖骨下動脈などに分化。
- 静脈系では前・後主静脈が形成され、やがて上下大静脈へ移行。
- 第10週以降
- 造血は肝臓から骨髄へ移行し、出生後の造血システムにつながる。
分子シグナル
- NKX2-5: 心臓形成のマスター遺伝子。
- TBX5: 心房・心室の区画化に必須。
- NOTCH, BMP, WNT: 心管形成やルーピングを制御。
- VEGF: 血管新生を誘導。
臨床的意義
- 先天性心疾患(心室中隔欠損、房室中隔欠損、大血管転位など)は、この時期の異常に由来。
- 造血異常(再生不良性貧血、造血幹細胞の欠陥)は初期の造血発生の理解と関連。
- 発生学的知識は、心臓再生医療や人工心臓開発の基盤にもなる。
まとめ
- 心臓は 第3週に心管形成 → 第4週に拍動開始 → 第7〜8週で四腔心完成 という早いスケジュールで発生する。
- 血管系と造血は並行して進行し、出生後の循環システムにつながる。
- 早期から機能する臓器だからこそ、発生過程の異常が臨床的に重大な影響を与える。