1. NK細胞とは何か
NK細胞(Natural Killer cell)はリンパ系細胞に属しますが、抗原特異性を持たない自然免疫系の細胞です。つまり、感染や腫瘍を「事前の学習なしに」感知し、即座に排除する即時防御機構を担います。
名前の“ナチュラルキラー”は、「生まれつき殺す能力を持つ」ことに由来します。
2. NK細胞の基本的な特徴
- 発生部位:骨髄で分化し、末梢血・脾臓・肝臓などに存在
- 形態:大型顆粒リンパ球(Large Granular Lymphocyte; LGL)
- 主要マーカー:ヒトではCD16(FcγRIII)、CD56(NCAM)
- MHC依存性:T細胞とは異なり、MHCによる抗原提示を必要としない
3. 「自己」か「非自己」かを見分ける仕組み
NK細胞は「Missing-self 認識」という独自の原理で異常細胞を見分けます。
正常な細胞は表面にMHCクラスI分子を発現していますが、ウイルス感染や腫瘍化した細胞はMHCクラスIの発現が低下します。
NK細胞は以下の受容体のバランスで攻撃の可否を判断します。
受容体のタイプ | 代表例 | 機能 |
---|---|---|
抑制性受容体 | KIR, NKG2A | MHCクラスIを認識し「攻撃中止」信号を送る |
活性化受容体 | NKG2D, NKp30, NKp46 | ストレス誘導分子を認識し「攻撃開始」信号を送る |
この「抑制と活性のバランス制御」により、NK細胞は自己組織を誤って攻撃しないように働きます。
4. NK細胞の攻撃メカニズム
NK細胞は標的細胞を見つけると、以下の二つの主要経路で排除します。
- パーフォリン・グランザイム経路
- パーフォリンが標的細胞膜に穴をあけ、グランザイムが細胞内へ侵入しアポトーシスを誘導。
- Fas/FasL経路
- NK細胞表面のFasLが標的細胞のFas受容体と結合し、細胞死を誘導。
また、CD16(Fc受容体)を介して抗体で覆われた標的を認識し、**抗体依存性細胞傷害(ADCC)**を起こすこともあります。
5. サイトカインとの相互作用
NK細胞の活性は、他の免疫細胞からのサイトカインによって調節されます。
サイトカイン | NK細胞への作用 |
---|---|
IL-12 | 樹状細胞やマクロファージから分泌され、NK細胞のIFN-γ産生を促進 |
IL-15 | NK細胞の分化・生存・増殖を維持 |
IL-2 | 活性化T細胞から分泌され、NK細胞の細胞傷害能を高める |
このように、NK細胞は自然免疫と獲得免疫の橋渡し的な存在でもあります。
6. がん免疫におけるNK細胞の役割
NK細胞は腫瘍の**免疫監視機構(immune surveillance)**を担います。初期の腫瘍細胞を早期に排除する一方、腫瘍が進行すると、NK細胞の機能が低下(“NK cell exhaustion”)することが知られています。
- がん免疫療法との関連
- IL-15誘導療法:NK細胞を活性化するサイトカイン治療
- CAR-NK療法:CAR-T療法の安全性を改良した新技術
- チェックポイント阻害:T細胞だけでなくNK細胞にもPD-1/PD-L1経路が存在
7. NK細胞とウイルス感染
インフルエンザウイルスやヘルペスウイルス感染時、NK細胞は感染初期から強力に働きます。ウイルス感染細胞はMHCクラスIを下げるため、NK細胞が選択的に認識・排除します。
また、NK細胞由来のIFN-γがマクロファージや樹状細胞を活性化し、全身的な抗ウイルス応答を強化します。
8. まとめ
NK細胞は「即応型の殺し屋」として自然免疫の第一線を守る存在です。
感染・腫瘍の初期段階で迅速に異常細胞を排除し、同時に獲得免疫の起動にも関与します。その柔軟で強力な機能は、今後の免疫療法開発においても注目されています。
次回予告
次回は「第6回:T細胞 ― 免疫応答の指揮官と記憶の担い手」をテーマに、ヘルパーT、キラーT、制御性T細胞など、免疫応答の中心的役割を持つT細胞を詳しく解説します。