ウイルス学シリーズ第2回:DNAウイルス ― 遺伝情報をDNAで持つウイルスたち

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DNAウイルスとは

DNAウイルスは、その名の通りDNAを遺伝情報として持つウイルスです。多くは宿主細胞の核内で複製を行い、宿主のDNAポリメラーゼを利用して自身のゲノムを増やします。
一般的にRNAウイルスに比べて変異が少なく安定しているため、慢性感染を起こす例も多く見られます。


DNAウイルスの基本的特徴

特徴内容
遺伝情報DNA(二本鎖または一本鎖)
増殖部位多くは宿主細胞の核内
変異率RNAウイルスより低い
感染様式潜伏感染・持続感染を起こしやすい
代表例アデノウイルス、ヘルペスウイルス、パポバウイルス、パルボウイルス、ポックスウイルス など

代表的なDNAウイルス

1. アデノウイルス(Adenovirus)

構造: 非エンベロープ、二本鎖DNAウイルス
疾患: 風邪様症状、咽頭結膜熱(プール熱)、肺炎、出血性膀胱炎など
特徴: 安定性が高く、環境中でも長期間感染力を保つ。遺伝子導入ベクターとしても利用される。


2. ヘルペスウイルス(Herpesviridae)

構造: エンベロープを持つ二本鎖DNAウイルス
代表ウイルスと疾患:

  • HSV-1(単純ヘルペスウイルス1型)― 口唇ヘルペス
  • HSV-2(単純ヘルペスウイルス2型)― 性器ヘルペス
  • VZV(水痘帯状疱疹ウイルス)― 水痘・帯状疱疹
  • EBV(Epstein-Barrウイルス)― 伝染性単核球症、バーキットリンパ腫
  • CMV(サイトメガロウイルス)― 免疫不全者での重篤感染
  • HHV-8(カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス)― がん関連ウイルス

特徴: 潜伏感染が特徴的で、神経節や免疫細胞に潜み、免疫低下時に再活性化する。


3. パポバウイルス(Papovavirus:現分類ではPapilloma+Polyoma)

構造: 非エンベロープ、二本鎖DNAウイルス
代表ウイルスと疾患:

  • ヒトパピローマウイルス(HPV)― 子宮頸がん、尖圭コンジローマ
  • BK・JCウイルス(Polyomavirus)― 移植後感染、神経疾患など

特徴: 一部は発がん性ウイルスとして知られ、細胞周期制御因子(p53, Rb)に作用して腫瘍化を誘導する。


4. パルボウイルス(Parvoviridae)

構造: 非エンベロープ、一本鎖DNAウイルス
代表ウイルス: ヒトパルボウイルスB19
疾患: 伝染性紅斑(りんご病)、胎児水腫、再生不良性貧血
特徴: 非常に小さなウイルスで、増殖には宿主細胞の分裂期が必要。


5. ポックスウイルス(Poxviridae)

構造: エンベロープを持つ大型DNAウイルス
代表ウイルス:

  • Variola virus(天然痘ウイルス)― ヒト感染症で唯一根絶に成功
  • Vaccinia virus(ワクシニアウイルス)― ワクチン製造に利用
  • Monkeypox virus(サル痘ウイルス)

特徴: DNAウイルスでは珍しく細胞質内で複製を行う。


DNAウイルスの感染様式と病態

DNAウイルスはしばしば潜伏感染再活性化を特徴とします。たとえばヘルペスウイルスは感染後、神経節に潜伏し、ストレスや免疫低下時に再燃します。
また、HPVやEBVなどは宿主ゲノムに組み込まれ、発がんのリスクを高めることがあります。


研究と医療応用

DNAウイルスは、遺伝子の安定性を利用してベクターとしての応用が盛んです。
アデノウイルスやアデノ随伴ウイルス(AAV)は、遺伝子治療やワクチン開発の分野で重要な役割を果たしています。


まとめ

DNAウイルスは、比較的安定した遺伝子を持ち、長期感染や潜伏を特徴とします。
一方で、発がんや免疫逃避といった現象を通じて、ウイルスと宿主の複雑な関係性を示す代表例でもあります。


次回予告

次回は「RNAウイルス ― 高い変異性と感染拡大力」をテーマに、インフルエンザウイルスやコロナウイルスなど、現代社会に直結するウイルス群を解説します。

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