CRISPR-Cas9とは?しくみ・応用・医療への可能性をわかりやすく解説

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CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)は、細胞内のDNAを狙った場所で正確に切断し、遺伝子を改変できる技術です。2012年にJennifer DoudnaとEmmanuelle Charpentierによって原理が報告され、生命科学・医学・農業など幅広い分野で革命的な技術として注目されています。


CRISPR-Cas9とは何か

もともとCRISPRは、細菌や古細菌がウイルス(ファージ)から身を守るために持つ「獲得免疫システム」です。細菌は侵入してきたウイルスのDNA断片を記憶し、次に同じウイルスが侵入した際、その配列を認識してCas(CRISPR-associated)タンパク質がDNAを切断して無力化します。このシステムを人工的に応用したものがCRISPR-Cas9です。


仕組み:sgRNAとCas9によるDNA切断

CRISPR-Cas9の中心となる構成要素は次の2つです。

  • Cas9酵素:DNAを切断する分子ハサミ。
  • sgRNA(single guide RNA):標的DNA配列を認識し、Cas9を誘導するガイドRNA。

sgRNAは標的DNAに結合し、PAM配列(例えばSpCas9では 5’-NGG-3’)の直前でCas9が二本鎖DNAを切断します。これにより細胞は修復機構(NHEJまたはHDR)を動員し、遺伝子に変異や特定配列の挿入が起こります。


遺伝子編集の2つのパターン

  1. ノックアウト(Knockout)
    DNA切断後、NHEJ修復によって塩基の欠失や挿入(インデル)が生じ、遺伝子の機能が失われます。
  2. ノックイン(Knockin)
    HDR修復を利用して、外来DNA(例えば蛍光タンパク遺伝子やタグ)を特定の位置に挿入します。

応用分野

1. 医療・治療への応用

  • 血液疾患(鎌状赤血球症、βサラセミア)で臨床試験が進行中
  • がん免疫療法(CAR-T細胞の遺伝子編集)
  • 網膜疾患など体内での直接遺伝子編集(in vivo Gene Editing)

2. 研究分野

  • 遺伝子機能解析(ノックアウトマウスや細胞株の作製)
  • 遺伝子スクリーニングによる薬剤標的探索
  • 疾患モデルの作製による病態解明

3. 農業・畜産

  • 病害抵抗性植物や気候変動耐性作物の開発
  • 筋肉量を増やした家畜、アレルゲン低減食品の開発

メリットと強み

  • 高い精度と効率
  • 設計が容易(sgRNAの配列を変えるだけ)
  • 従来のZFNやTALENより低コストで迅速

課題と安全性

  • オフターゲット効果:似た配列のDNAが誤って切断される可能性
  • 倫理的問題:ヒト胚への編集、遺伝的改変の世代伝播
  • 免疫反応:Cas9が細菌由来であるため、体内で免疫反応を起こす報告もあり

今後の展望

近年は改良型技術も登場しています。

  • Base Editor(塩基置換編集):DNAを切断せずに一塩基の書き換えが可能
  • Prime Editing:より正確な配列挿入や置換が可能
  • CRISPRa/CRISPRi:切断せずに遺伝子発現を増強・抑制する技術

これらの進化により、CRISPR技術は「治療」「再生医療」「創薬」「農業イノベーション」など多方面の未来を変える可能性を秘めています。


まとめ

CRISPR-Cas9は、sgRNAとCas9酵素を利用してDNAを狙って切断し、遺伝子を自由に改変できる技術です。生命科学を大きく変えた技術でありながら、医療応用には安全性・倫理の配慮が欠かせません。今後の進化と社会的議論の両立が、未来の使用方法を決定していくでしょう。

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