DNAを切らずに遺伝子を書き換える技術:Base Editor(塩基置換編集)をわかりやすく解説

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Base Editor(ベースエディター、塩基置換編集)は、CRISPR-Cas9技術を改良して生まれた次世代のゲノム編集技術です。従来のCRISPR-Cas9はDNAを二本鎖切断して修復過程で変異を導入しますが、Base EditorはDNAを切断せずに、特定の塩基を別の塩基に直接変換します。そのため、より正確で細胞へのダメージが少ない点が特徴です。


Base Editorとは何か

DNAはA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4種類の塩基で構成されています。Base Editorは、この塩基の一つを別の塩基へ狙って変換する技術で、特に「点変異(1塩基の変化)」が原因となる遺伝病の修復に適しています。

主なタイプは以下の2種類です。

  • CBE(Cytosine Base Editor):C→T(またはG→A)へ変換
  • ABE(Adenine Base Editor):A→G(またはT→C)へ変換

技術の仕組み

Base Editorは以下の要素で構成されています。

  • 変異型Cas9(nickase Cas9、nCas9):DNAを二本鎖切断せず、片方の鎖だけを切るよう改変されたCas9。
  • デアミナーゼ酵素:CBEではAPOBEC1、ABEではTadAなど。標的塩基を化学的に変換します。
  • sgRNA(ガイドRNA):目的のDNA配列にCas9を誘導するRNA。

例えばCBEの場合、nCas9が標的DNAに結合し、APOBEC1がCをU(ウラシル)に変換します。細胞の修復機構がUをTとして認識し、結果としてC→T(G→A)への書き換えが起こります。


CRISPR-Cas9との違い

特徴CRISPR-Cas9Base Editor
DNA切断二本鎖切断切断しない(片鎖のみ)
主な修復機構NHEJ / HDR化学変換と修復
主な用途ノックアウト・ノックイン点変異の修正
精度インデルが発生しやすいインデルが少なく精度が高い

応用分野

医療

  • 鎌状赤血球症、βサラセミア、家族性高コレステロール血症などの点変異疾患の修正
  • 網膜疾患や肝疾患など体内での遺伝子治療(in vivo編集)

研究

  • 病因遺伝子の解析
  • 変異導入モデル細胞・モデル動物の作製
  • 遺伝子スクリーニングによる薬剤の標的探索

メリット

  • DNAを切らないため、染色体の大規模な欠損や再構成のリスクが低い
  • HDRに依存しないため、分裂しない細胞でも編集可能
  • 1塩基の精密な変換が可能

課題と問題点

  • オフターゲット編集:似た配列やRNAにも誤変異が起こる場合がある
  • 編集可能範囲の制限:PAM配列や編集ウィンドウの制約がある
  • 脱アミノ化の副作用:デアミナーゼが意図しない場所を編集するリスク

Prime Editingとの比較

Base Editorは1塩基変換に特化しています。一方、Prime Editingは「挿入・欠失・塩基置換」すべてに対応できる柔軟な技術です。ただし構造が複雑で、現在はBase Editorの方が臨床応用に近いとされています。


まとめ

Base EditorはDNAを切断せずに一塩基を変換できる次世代の遺伝子編集技術です。高い精度と低リスクで遺伝病の根本治療に近づく手段として期待されていますが、オフターゲットや倫理的課題など解決すべき問題も残されています。今後もCRISPR技術の進化とともに、医療・研究・農業の分野でその可能性がさらに広がると考えられます。

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