コラーゲンとは何か
コラーゲン(collagen)は、哺乳類タンパク質全体の約 30% を占める、体内で最も豊富な構造タンパク質です。
細胞外マトリックス(ECM)の主要構成要素であり、皮膚、骨、軟骨、腱、血管、基底膜など、さまざまな組織に存在します。
コラーゲンの最大の特徴は、以下の3つです。
- 強靭な線維構造(トリプルヘリックス)
- 高い引張強度
- 組織ごとに異なる多様なタイプ(約28種類)
生体の「構造体」として働くだけでなく、細胞接着、シグナル伝達、組織再生にも深く関わります。
コラーゲンの基本構造:トリプルヘリックス
すべてのコラーゲンの共通構造は トリプルヘリックス(三重らせん) です。
● アミノ酸配列の特徴
コラーゲンは「Gly–X–Y」という3アミノ酸の繰り返しで構成されます。
- Gly(グリシン):最小のアミノ酸。三重らせんの中心に必須
- X:多くはプロリン
- Y:多くはヒドロキシプロリン(プロリンが修飾されたもの)
この特有のアミノ酸配列が、強靭で規則的な線維構造を形成します。
コラーゲンの分類(Type I〜XXVIII)
コラーゲンは現在 28種類以上 が知られ、働きや構造に基づいて次のように分類されます。
● 線維性コラーゲン(Fibrillar Collagen)
もっとも代表的なクラスで、強靭な線維を形成します。
- Ⅰ型:皮膚、腱、骨など。最も豊富
- Ⅱ型:軟骨
- Ⅲ型:血管、皮膚
- Ⅴ型・XI型:線維形成の調節
● ネットワーク形成コラーゲン(Network-forming Collagen)
- Ⅳ型:基底膜(Basement membrane)の主要構成要素
- Ⅷ型・X型:特殊なネットワーク構造をつくる
● FACITコラーゲン(Fibril-Associated Collagens with Interrupted Triple helices)
線維間の架橋や調整を担う
- Ⅸ型、XII型、XIV型 など
● その他の特殊コラーゲン
膜型コラーゲン(XIII型など)・多ドメイン型(XV、XVIII型)など。
コラーゲンの生合成
コラーゲン合成は細胞内外をまたぐ複雑なプロセスです。
主要な産生細胞は 線維芽細胞(fibroblasts) ですが、軟骨細胞、骨芽細胞、上皮細胞なども産生します。
●(1)細胞内でのプロコラーゲン合成
- 粗面ERで翻訳 → プロコラーゲン鎖が合成
- プロリン・リジンのヒドロキシル化(ビタミンC必須)
- 糖修飾
- 三重らせん構造の形成
●(2)細胞外での成熟
- プロペプチド除去
- コラーゲン分子が自己集合して線維形成
- リジルオキシダーゼによる架橋 → 強靭な線維に
ビタミンC不足で壊血病が起こる理由は、ヒドロキシル化が障害され、三重らせんが安定できなくなるためです。
コラーゲンの生理的役割
1. 組織の強度維持
皮膚の弾力、腱の強度、骨の硬さなど、組織の性質を大きく規定します。
2. 細胞外マトリックスの構築
細胞接着、細胞移動、分化誘導に関わり、組織構造の維持に不可欠です。
3. シグナル伝達
細胞表面の受容体(インテグリンなど)と結合し、増殖、運動、分化などを制御します。
4. 組織修復
創傷治癒では線維芽細胞が大量のⅠ型コラーゲンを産生し、瘢痕形成が進みます。
コラーゲンと疾患
コラーゲン異常は多くの疾患を引き起こします。
● 遺伝性疾患
- Ehlers–Danlos症候群(EDS):Ⅰ・Ⅲ型などの異常
- 軟骨異栄養症:Ⅱ型コラーゲン変異
- 骨形成不全症(Osteogenesis imperfecta):Ⅰ型の遺伝子変異
● 獲得性疾患
- 線維化(肝・肺・腎など):Ⅰ型コラーゲン過剰沈着
- がんの進展:ECMリモデリングが転移や幹細胞性に影響
- 皮膚老化:UVによるⅠ型コラーゲン劣化
まとめ
コラーゲンは「体の構造を支えるタンパク質」というだけではなく、
細胞の運命制御・組織機能・再生・疾患 に深く関わる、非常に多面的な分子です。
この総論をベースに、次の記事では以下のようなテーマを掘り下げることができます:
- Ⅰ型〜Ⅴ型など、主要コラーゲンタイプの詳細解説
- コラーゲンの生合成プロセスを分子レベルで解説
- コラーゲンの分解とリモデリング(MMP・LOXなど)
- 老化・がん・線維化とコラーゲンの関係
- 基底膜の構造(Ⅳ型・ラミニンとの関係) など