脂質シリーズ 第5回:脂質代謝と疾患(肥満・糖尿病・脂質異常症・炎症・がん)

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1. はじめに:脂質代謝がなぜ疾患を生むのか

脂質は細胞膜の素材であり、エネルギー源であり、シグナル分子としても機能します。
そのため、脂質代謝が破綻すると細胞全体の恒常性が崩れ、慢性疾患の基盤となります。

特に以下のような代謝異常が重要です:

  • 脂肪酸の過剰合成(de novo lipogenesis)
  • β酸化の低下
  • コレステロール代謝異常
  • 中性脂肪の蓄積と脂肪組織炎症
  • 脂質メディエーターの不均衡

以下で、代表的な疾患との関係を生化学・病態生理の観点から整理していきます。


2. 肥満:脂質代謝過剰のスタート地点

● 2-1. 白色脂肪組織の肥大と炎症

肥満では脂肪細胞が肥大し、

  • 血流不足
  • 低酸素
  • ERストレス
    が亢進します。

その結果、
マクロファージが浸潤し慢性炎症が持続することが、後続の代謝疾患の引き金となります。

● 2-2. 脂肪肝(NAFLD)との関連

過剰な脂肪酸は肝臓に流入し、中性脂肪として蓄積します。
脂肪肝は
インスリン抵抗性 → 糖尿病 → NASH → 肝がん
という連続した病態の起点となります。


3. 2型糖尿病:脂質代謝が引き起こすインスリン抵抗性

● 3-1. 筋・肝での脂肪酸蓄積によるインスリン抵抗性

脂質中間代謝産物(DAG、セラミド)が増えると

  • PKCθ活性化
  • Aktのリン酸化阻害
    が起こり、インスリンシグナルが遮断されます。

これが2型糖尿病におけるインスリン抵抗性の核心です。

● 3-2. β細胞の脂質毒性

膵臓のβ細胞は脂質ストレスに弱く、

  • 過剰脂肪酸によるアポトーシス
  • 活性酸素種増加
    によりインスリン分泌不全も進行します。

4. 脂質異常症:脂質輸送システムの破綻

脂質異常症は、

  • LDL増加
  • HDL低下
  • 中性脂肪増加
    などで定義されます。

● 4-1. コレステロール輸送の異常

LDLは末梢へコレステロールを運び、HDLは逆輸送(末梢→肝)を行います。
HDLの低下は動脈硬化を促進し、心血管疾患リスクを上昇させます。

● 4-2. 中性脂肪とVLDL

肝臓での脂肪酸蓄積がVLDL増加を招き、動脈硬化の素地になります。


5. 慢性炎症と脂質メディエーター

脂質は炎症反応の「主役」でもあります。

● 5-1. 炎症性脂質メディエーター

  • アラキドン酸 → プロスタグランジン・ロイコトリエン
  • リゾホスファチジン酸(LPA)
    これらは炎症性疾患の進行を強力に促進します。

● 5-2. 抗炎症性脂質メディエーター

  • レゾルビン
  • プロテクチン
  • マレシン
    は炎症の「停止信号」を担います。

肥満ではこれらのバランスが崩れるため、炎症が止まらなくなる点が特徴です。


6. がん:脂質代謝のリプログラミング

がん細胞は脂質代謝を大幅に書き換えます。

● 6-1. de novo 脂肪酸合成の亢進

ATP citrate lyase(ACLY)、FASN、SCD1などが過剰発現し、
細胞膜構築や増殖に必要な脂肪酸をがん細胞自身が作り出します

● 6-2. 脂質ドロップレットとストレス耐性

脂質ドロップレットは

  • ROS緩和
  • 脂毒性からの保護
    に働き、腫瘍の生存を助けます。

● 6-3. がん微小環境での脂質利用

特に

  • がん幹細胞
  • 転移能の高い細胞
    は脂質酸化(FAO)を活用して生存や移動を強化します。

(※ユーザーの研究テーマである CD9–ITGA3 と ECMリモデリングとも密接にリンクします)


7. まとめ:脂質代謝は病態の「ハブ」である

脂質代謝の破綻は個別疾患ではなく、
肥満 → 糖尿病 → 脂質異常症 → 炎症 → がん
という連続性のある疾患ネットワークを形成します。

今後の治療戦略として重視されるのは:

  • 代謝酵素(FASN、ACLY 等)の阻害
  • 脂質メディエーターの制御
  • 脂肪組織炎症の抑制
  • がん細胞の脂質代謝依存性を標的化

など、脂質を中心に据えた包括的なアプローチです。

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