第7回:抗インフルエンザ薬の作用機序と耐性

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■ 抗インフルエンザ薬の分類

現在臨床で使用される抗インフルエンザ薬は大きく以下の 3 系統に分けられます。

  1. ノイラミニダーゼ阻害薬(NA阻害薬)
  2. キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬(バロキサビル)
  3. M2イオンチャネル阻害薬(アマンタジン系)※現在は実質使用されない

A型・B型の双方に有効なのは NA阻害薬とバロキサビル です。


■ 1. ノイラミニダーゼ阻害薬(NA inhibitors)

● 代表薬

  • オセルタミビル(タミフル)
  • ザナミビル(リレンザ)
  • ラニナミビル(イナビル)
  • ペラミビル(ラピアクタ:静注)

● 作用機序

ウイルス表面の ノイラミニダーゼ(NA) は、感染細胞からウイルス粒子が離脱する際に必要な酵素です。
NA阻害薬はこの酵素をブロックし、以下を阻害します:

  • 感染細胞からのウイルス放出を阻害
  • ウイルスの拡散を抑制

発症後48時間以内の投与が最も有効。

● 耐性

代表的な変異:

  • H275Y(N1系):オセルタミビル耐性
  • R292K(N2系):ザナミビル以外に高度耐性

近年はワクチン接種率やウイルス遺伝子背景により、耐性株の流行は比較的抑えられています。


■ 2. バロキサビル(キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬)

● 代表薬

  • バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ)

● 作用機序

インフルエンザウイルスはmRNA合成の際に
“cap-snatching”(宿主mRNAのキャップを切り取って利用)
を行います。

バロキサビルはこれに必要な酵素
PAサブユニットのエンドヌクレアーゼ活性
を阻害し、ウイルスmRNAの合成を封じます。

→ 増殖初期に強い効果を持つ「1回投与」の薬。

● 耐性

  • **I38T/M変異(PA遺伝子)**が最も有名
  • 感染後のウイルスから出現しやすいが、伝播力はやや低下することが多い
  • 小児で耐性が出やすいことが報告され、使用指針に影響している

■ 3. M2イオンチャネル阻害薬(アマンタジン系)

● 代表薬

  • アマンタジン
  • リマンタジン

● 作用機序

M2イオンチャネルの働きを阻害し、ウイルス侵入後の**脱殻(uncoating)**を阻止します。

● 臨床ではほぼ使用されない理由

  • A型のほとんどが S31N変異により高度耐性
  • B型には構造的にM2タンパクが異なるため 効果がない

■ 抗インフルエンザ薬の使い分け(概要)

薬剤系統作用する型特徴注意点
NA阻害薬A/B拡散阻害、実績豊富早期投与が必要
バロキサビルA/B1回投与、増殖初期を抑える耐性(I38T)が出やすい
M2阻害薬Aのみ脱殻阻害現在は耐性で使用困難

■ まとめ

  • NA阻害薬はウイルス放出を抑え、現在も標準的治療
  • バロキサビルはエンドヌクレアーゼ阻害により増殖を抑える新しい作用点
  • M2阻害薬は耐性蔓延により現実的には使用されない
  • いずれの薬も 早期投与が効果の鍵
  • 耐性は主にウイルスの表面タンパク(NA)やポリメラーゼ複合体(PA)の点変異によって生じる
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