ITGB3はインテグリンβ鎖の一種で、主に ITGAV(αV) または ITGAIIb(αIIb) とヘテロダイマーを形成し、細胞接着・シグナル伝達・血小板機能・がん進展に関与する重要な膜タンパク質です。
特に
- αIIbβ3(GPIIb/IIIa):血小板凝集
- αVβ3:血管新生・がん浸潤・幹細胞性
という2つの顔を持つ点が、ITGB3の最大の特徴です。
遺伝子・タンパク質の基本情報
- 遺伝子名:ITGB3
- 染色体位置:17q21.32
- タンパク質長:約788アミノ酸
- 発現部位:
- 血小板
- 内皮細胞
- 骨芽細胞
- がん細胞(特に浸潤・転移能が高い細胞)
ITGB3が形成するインテグリン複合体
① αIIbβ3(ITGAIIb–ITGB3)
- 血小板特異的
- フィブリノーゲン、vWFと結合
- 血小板凝集・止血の中核分子
- ITGB3異常 → Glanzmann血小板無力症
② αVβ3(ITGAV–ITGB3)
- 血管内皮・腫瘍細胞・骨系細胞に発現
- RGDモチーフを持つECM(Vitronectin, Osteopontin など)と結合
- がん生物学で特に重要
ITGB3のシグナル伝達機構
Inside-out signaling
- 細胞内シグナル(Talins, Kindlins)により
→ インテグリン構造変化
→ リガンド結合能が上昇
Outside-in signaling
- ECM結合後に
- FAK
- SRC
- PI3K–AKT
- MAPK
などを活性化し、以下を制御:
- 細胞生存
- 遊走
- 増殖
- EMT様変化
ITGB3とがん
1. がん浸潤・転移
αVβ3は
- 基底膜破壊
- 血管内侵入
- 遠隔転移
を促進し、「転移型インテグリン」として知られます。
2. がん幹細胞性
- ITGB3高発現細胞は
- 自己複製能
- 薬剤耐性
- 再発能
を示すことが多い
乳がん・肺がん・膵がんなどで
ITGB3 = stemness marker として報告されています。
3. 血管新生
- 腫瘍血管内皮で高発現
- VEGFシグナルと協調
- 抗VEGF抵抗性との関連も示唆
ITGB3とECM分子
ITGB3は以下のECMと強く相互作用します:
- SPP1(Osteopontin)
- Vitronectin
- Fibronectin
- Fibrinogen
特に
SPP1–αVβ3軸は
- がん進行
- 免疫抑制
- 転移ニッチ形成
に関与し、近年注目されています。
ITGB3と免疫・炎症
- マクロファージ活性化
- M2極性化の促進
- T細胞抑制環境の形成
腫瘍微小環境(TME)における
免疫抑制型ECM受容体としての側面も重要です。
疾患との関連
血液疾患
- Glanzmann血小板無力症(先天性ITGB3異常)
骨疾患
- 骨吸収・骨リモデリング異常
がん
- 乳がん
- 肺がん
- 膵がん
- 悪性黒色腫
などで予後不良因子
治療標的としてのITGB3
既存薬
- Abciximab(抗αIIbβ3抗体):抗血小板薬
がん治療での試み
- αVβ3阻害剤(Cilengitideなど)
- 単独では限定的
- 併用療法・患者選択が課題
今後の方向性
- がん幹細胞標的
- ECM依存性可塑性の阻害
- 免疫療法との併用
まとめ
ITGB3は単なる接着分子ではなく、
- 血小板機能
- ECM感知センサー
- がん幹細胞性
- 転移・血管新生
- 免疫抑制
を統合する多機能インテグリンβ鎖です。
特に
SPP1–αVβ3軸や
幹細胞性・可塑性との関連は、今後のがん研究・治療標的として極めて重要です。