第6回 ミコフェノール酸モフェチル:IMPDH阻害とB/T細胞選択性

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はじめに

ミコフェノール酸モフェチル(mycophenolate mofetil, MMF)は、ループス腎炎をはじめとする膠原病領域で急速に使用頻度が高まった免疫抑制剤である。

AZAと同じく「リンパ球選択性」を特徴とするが、その分子標的はより明確で、プリン代謝の律速点を一点で遮断する洗練された代謝拮抗薬と位置づけられる。


ミコフェノール酸はプロドラッグである

MMFは体内で速やかに加水分解され、活性体である

  • ミコフェノール酸(MPA) へ変換される。

免疫抑制作用の本体は、このMPAによるIMPDH阻害である。


IMPDHとは何か:グアニン合成の律速酵素

IMPDH(inosine monophosphate dehydrogenase)は、

  • IMP → XMP → GMP というグアニンヌクレオチド合成の律速段階を担う酵素である。

特に重要なのは、

  • 活性化リンパ球ではIMPDH依存性が極めて高い という点である。

リンパ球はなぜIMPDHに弱いのか

リンパ球、特に活性化T細胞・B細胞は、

  • 急速なDNA/RNA合成
  • クローン増殖 を行うため、グアニンヌクレオチド需要が爆発的に増加する。

このときリンパ球は

  • salvage経路を十分に使えず
  • de novo合成に強く依存 している。

IMPDHを阻害されると、リンパ球は代謝的に行き詰まる


MPAによるIMPDH阻害の分子効果

MPAはIMPDHを選択的かつ可逆的に阻害し、

  • GMP枯渇
  • GTP低下
  • DNA/RNA合成不全

を引き起こす。

その結果、

  • T細胞増殖抑制
  • B細胞増殖抑制
  • 抗体産生低下 が生じる。

これは細胞死誘導ではなく、増殖不能状態の誘導に近い。


B細胞抑制が強い理由

MMFは、

  • 抗体産生
  • クラススイッチ
  • 形質細胞分化

といったB細胞依存プロセスを強く抑制する。

このため、

  • ループス腎炎
  • 抗体依存性自己免疫疾患 で特に高い有効性を示す。

他細胞が比較的保たれる理由

  • 多くの体細胞はsalvage経路を活用可能
  • 増殖速度が低い

ため、IMPDH阻害の影響は限定的となる。

この点でMMFは、 ステロイドより狭く、AZAより予測可能な免疫抑制を実現する。


副作用の分子背景

骨髄抑制

  • グアニン枯渇による造血細胞増殖抑制

消化管障害

  • 上皮細胞の高い増殖回転への影響

一方で、

  • 肝障害
  • 発がん性 は比較的少ないとされる。

臨床的位置づけ

MMFは、

  • ループス腎炎の寛解導入・維持
  • ステロイド節約
  • AZA不耐例の代替

として用いられ、現代的リンパ球代謝標的薬の代表格である。


これまでの代謝拮抗薬の整理

  • MTX:アデノシン経路による抗炎症調整
  • AZA/6-MP:プリンde novo合成阻害+DNA誤組み込み
  • MMF:IMPDH阻害によるグアニン枯渇

同じ「代謝拮抗薬」でも、標的階層は明確に異なる。


まとめ

ミコフェノール酸モフェチルは、

  • IMPDHという明確な分子標的を通じて
  • B細胞・T細胞の代謝的脆弱性を突く

高度に設計されたリンパ球選択的免疫抑制剤である。

次回は、**生物学的製剤(サイトカイン阻害・共刺激阻害)**を取り上げ、分子標的治療へのパラダイムシフトを解説する。


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