【第3回】ノックアウトとノックインの戦略設計 ― 実験をどう組み立てるか

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はじめに

CRISPR-Cas9の原理を理解しても、
実験は「どう設計するか」で結果が決まります。

今回は、ノックアウト(KO)ノックイン(KI) をどのように戦略的に設計するかを、研究現場の視点で整理します。


1. ノックアウト設計の基本戦略

① どのエクソンを狙うか?

最重要ポイントは:

できるだけ上流の共通エクソンを狙う

理由:

  • フレームシフトが起これば、ほぼ確実に機能喪失
  • ナンセンス変異によるNMD誘導
  • 代替スプライシング回避

避けるべき設計

  • 末端エクソンのみを標的にする
  • 機能ドメイン外のみを切断する

② 1本gRNAか2本gRNAか?

● 1本gRNA(indel誘導)

  • 最も簡便
  • 小さな挿入欠失を利用
  • スクリーニングが必要

● 2本gRNA(エクソン欠失)

  • 狙った領域を確実に削除
  • PCRで検出容易
  • 大きな欠失を誘導可能

研究目的によって使い分けます。


③ フレームシフト確認は必須

  • Sangerシーケンス
  • TIDE解析
  • ICE解析

タンパクレベルでは:

  • Western blot
  • FACS
  • 機能アッセイ

「DNAが変わった」=「機能が失われた」ではありません。


2. ノックイン設計の基本戦略

ノックインはHDR依存です。


① 挿入目的を明確にする

  • レポーター導入(GFP, tdTomatoなど)
  • タグ付加(FLAG, HA)
  • 点変異導入
  • 条件付きアレル作製

目的によってテンプレート設計が全く異なります。


② HDRテンプレート設計

重要要素:

  • 相同アーム(通常500–1000 bp)
  • 切断部位から近い変異導入
  • PAM変異導入(再切断防止)

PAMを変えないと、編集後も再び切られます。


③ テンプレートの形式

目的テンプレート
点変異ssODN
小規模挿入dsDNA
大型カセットプラスミド

大型ノックインでは効率が大きな課題になります。


3. 実験系ごとの戦略の違い

① 細胞株

  • HDR効率が比較的高い
  • クローン選別が可能
  • モザイクは問題にならない

② マウス受精卵

  • モザイク問題あり
  • HDR効率が低い
  • founder解析が重要

③ in vivo直接編集

  • ウイルスベクター利用
  • オフターゲット管理が重要
  • 組織特異性が課題

4. よくある失敗パターン

❌ フレームがずれないin-frame変異

→ 機能が残る

❌ 代替スプライシングが発生

→ 予想外のタンパク産生

❌ HDRが起こらない

→ NHEJ優位

❌ モザイク

→ 個体差が大きい


5. 戦略設計の思考フレーム

実験設計は以下の順序で考えます:

  1. 仮説は何か?
  2. 機能喪失で十分か?
  3. レポーターは必要か?
  4. 時間軸制御は必要か?
  5. 組織特異性は必要か?

単に「遺伝子を壊す」ではなく、
何を証明したいかから逆算することが最重要です。


6. 概念的に重要な点

遺伝子改変は因果関係を証明する最強の方法ですが、

  • 補償経路
  • 遺伝子冗長性
  • 環境依存性

によって、表現型が見えないこともあります。

つまり、

表現型が出ない=機能がない
ではありません。


まとめ

ノックアウトとノックイン設計の本質は:

  • 分子生物学的構造理解
  • DNA修復機構の理解
  • 仮説駆動型の設計

CRISPRは簡単ですが、
良い実験設計は決して簡単ではありません。

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