【第4回】コンディショナル遺伝子改変 ― 時間と空間を制御する

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はじめに

通常のノックアウトでは、

  • 胎生致死
  • 全身性影響
  • 発生段階での補償

といった問題が生じます。

そこで開発されたのが
「時間」と「空間」を制御できる遺伝子改変技術です。

その中心が Cre-loxP system です。


1. Cre-loxPシステムの基本原理

この技術は、バクテリオファージP1由来の組換え酵素 Cre を利用します。

基本構造

  • loxP配列(34 bp)
  • Creリコンビナーゼ

遺伝子の重要エクソンを2つのloxPで挟みます。

これを「flox(flanked by loxP)」と呼びます。

Creが発現すると:

loxP間が切り取られる(excison)

これにより特定遺伝子が削除されます。


2. 組織特異的ノックアウト

Creを特定プロモーターの下で発現させることで、

  • 肝臓だけ
  • 神経だけ
  • 免疫細胞だけ

といった組織特異的ノックアウトが可能になります。

  • Albumin-Cre(肝臓)
  • Nestin-Cre(神経系)
  • Lck-Cre(T細胞)

これにより、

「その組織での機能」だけを解析できる

ようになりました。


3. 時間特異的制御 ― 誘導型Cre

発生段階での影響を避けたい場合は、
誘導型Creを用います。

代表例:

Cre-ERT2

Creにエストロゲン受容体変異体を融合。

通常は細胞質に存在し、

タモキシフェン投与により核へ移行 → 組換えが起こる。

つまり:

投与タイミング=遺伝子削除タイミング

となります。


4. 実験設計で重要なポイント

① flox設計

  • 共通エクソンを挟む
  • フレームシフトを確実に起こす
  • 代替スプライシング回避

② Creの発現パターン検証

  • レポーターマウスとの交配
  • Rosa26-LSL-tdTomatoなど

Creの発現漏れ(leakiness)確認は必須です。

③ ヘテロとホモの違い

多くの場合:

  • flox/flox
  • Cre+

の個体でKOが起きます。

コントロール設計が非常に重要です。


5. よくある落とし穴

❌ Cre自体の毒性

Cre発現のみで表現型が出ることがあります。

❌ 不完全な削除

全細胞で完全KOになるとは限りません。

❌ 補償機構

発生段階での適応が生じる場合があります。


6. CRISPRとの統合

現在は、

  • CRISPRでfloxアレルを作製
  • 既存Creラインと交配

という流れが一般的です。

これにより、従来より迅速にコンディショナルマウスを作製可能になりました。


7. 概念的な意義

コンディショナル改変は単なる技術ではありません。

それは、

  • 遺伝子機能の「文脈依存性」
  • 組織間相互作用
  • 時間軸による役割変化

を解析するための方法論です。

発生とがん、生理と病態を切り分ける上で不可欠です。


まとめ

コンディショナル遺伝子改変の本質は:

  • loxPで挟む
  • Creで切る
  • 発現場所とタイミングを制御する

この3点に集約されます。

全身KOでは見えなかった機能が、
時間・空間を制御することで初めて明らかになります。

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