【第5回】ベースエディターとプライムエディティング ― 切らないゲノム編集

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はじめに

従来のCRISPR-Cas9は「切って修復させる」技術でした。

しかしDNA二本鎖切断(DSB)には、

  • 予測不能なindel
  • 染色体転座
  • p53活性化

といったリスクがあります。

そこで登場したのが、

DNAを切らずに書き換える技術です。


1. ベースエディター(Base Editor)

ベースエディターは、

  • Cas9ニッカーゼ(nCas9)
  • 脱アミノ化酵素

を融合した人工タンパク質です。

Cas9は片鎖のみを切断し、
脱アミノ化酵素が塩基を化学的に変換します。


① CBE(Cytosine Base Editor)

C → T 変換を誘導

仕組み:

C → U(脱アミノ化)
修復過程で U → T に固定


② ABE(Adenine Base Editor)

A → G 変換を誘導

A → I(イノシン)
IはGとして認識される


ベースエディターの特徴

  • DSBを伴わない
  • HDR不要
  • 効率が高い
  • ただし変換可能な塩基が限定される

ヒト疾患変異の約半数は点変異であるため、
非常に大きな臨床的ポテンシャルがあります。


2. プライムエディティング(Prime Editing)

より柔軟な編集を可能にしたのが

Prime editing

です。

開発者は David Liu ら。


仕組み

構成要素:

  • nCas9
  • 逆転写酵素(RT)
  • pegRNA(拡張ガイドRNA)

pegRNAは:

  • 標的配列指定
  • 書き換え配列情報
  • RTテンプレート

を同時に含みます。


編集の流れ

  1. nCas9が片鎖切断
  2. pegRNAを鋳型に逆転写
  3. 新配列がゲノムに組み込まれる
  4. 修復により固定

これにより、

  • 塩基置換
  • 小規模挿入
  • 小規模欠失

が可能になります。


3. ベースエディター vs プライムエディティング

特徴ベースエディタープライム編集
DSBなしなし
変換可能範囲限定広い
設計難易度比較的簡単やや複雑
精密性高い非常に高い

4. なぜ「切らない」ことが重要か?

DSBは細胞にとって強いストレスです。

  • p53活性化
  • 大規模欠失
  • 予期せぬ染色体再構成

特に臨床応用では、安全性が最重要です。

切らない編集は、

精密医療への橋渡し技術

といえます。


5. 限界と課題

ベースエディター

  • 編集ウィンドウ制限
  • バイスタンダー変異

プライム編集

  • 効率が細胞種依存
  • in vivo応用は発展途上

現在は送達技術(AAV, LNPなど)との統合が研究されています。


6. 概念的意義

従来のゲノム編集は

「壊す技術」

でした。

一方、これらの技術は

「精密に修復する技術」

です。

これは医学的にも哲学的にも大きな転換点です。


まとめ

ベースエディターとプライムエディティングは:

  • DSB不要
  • 精密な点変異導入が可能
  • 臨床応用に近い

次世代ゲノム編集の中心技術です。

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