はじめに
これまで解説してきた遺伝子改変は、多くが
- 細胞株
- 受精卵
- ex vivo操作
でした。
しかし現在の最前線は、
「体内で直接編集する」
in vivoゲノム編集です。
これは基礎研究だけでなく、
治療技術としての実装段階に入っています。
1. in vivo編集の本質的課題
最大の課題はただ一つです。
編集酵素を標的細胞にどう届けるか?
DNAを正確に切る・書き換える技術はすでに存在します。
問題は「送達(delivery)」です。
2. ウイルスベクター ― AAV
最も広く利用されているのが
Adeno-associated virus(AAV)
です。
AAVの特徴
- 病原性が低い
- 分裂しない細胞にも感染可能
- 比較的安全性が高い
特に:
- 肝臓
- 網膜
- 筋肉
- 神経
への送達に強みがあります。
制限
- 積載容量が小さい(約4.7 kb)
- Cas9が大きい
- 免疫反応の問題
このため、小型Cas9の利用や、二分割ベクター戦略が用いられています。
3. 非ウイルス系送達 ― LNP
mRNAワクチンで一躍有名になった
Lipid nanoparticle(LNP)
も重要な技術です。
LNPの特徴
- mRNAを封入可能
- 一過性発現
- 免疫原性が比較的低い
- 大量生産が可能
主に肝臓への送達効率が高いです。
4. in vivo編集の実例
現在、臨床応用が進んでいる分野:
- 遺伝性肝疾患
- 血液疾患
- 眼科疾患
特に肝臓は:
- LNPが自然に集積
- 高い編集効率
- 生検で評価可能
という理由で先行しています。
5. in vivo特有の課題
① オフターゲット
体内では全細胞を完全に解析できません。
そのため安全性評価が極めて重要です。
② モザイク
全細胞が編集されるわけではありません。
治療効果に必要な編集率が重要になります。
③ 免疫応答
- Cas9に対する既存免疫
- AAVに対する中和抗体
これらが臨床応用の大きな壁です。
6. ベースエディター・プライム編集との統合
DSBを伴わない編集技術は、
- 染色体異常リスク低減
- 安全性向上
の観点から、in vivo応用と非常に相性が良いと考えられています。
現在は、
- 小型エディター開発
- 高効率LNP改良
- 組織特異的プロモーター利用
が活発に研究されています。
7. 概念的転換点
in vivoゲノム編集は、
「モデル作製技術」から「治療技術」への転換
を意味します。
これは分子生物学の枠を超え、
- 臨床医学
- 薬学
- 倫理学
- 社会制度
と密接に関わる段階に入ったことを示します。
まとめ
in vivo遺伝子改変の鍵は:
- 送達技術
- 安全性
- 効率
技術的ブレイクスルーはすでに起きていますが、
実装には慎重な検証が不可欠です。