【第7回】遺伝子改変と倫理 ― 技術はどこまで許されるのか

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はじめに

遺伝子改変技術は、いまや研究室の中だけの話ではありません。

  • 遺伝性疾患の治療
  • がん治療
  • 再生医療

その一方で、

  • 胚編集
  • デザイナーベビー
  • 遺伝的格差

といった倫理的課題も浮上しています。

技術は可能でも、「許されるか」は別問題です。


1. 体細胞編集と生殖細胞編集の違い

まず区別すべきはこの2つです。

① 体細胞編集(Somatic editing)

  • 患者本人のみ影響
  • 次世代へは遺伝しない
  • 現在臨床応用が進行中

倫理的には比較的受容されています。


② 生殖細胞・胚編集(Germline editing)

  • 精子・卵子・受精卵を編集
  • 子孫に永続的に継承
  • 社会的影響が極めて大きい

ここが最も議論の中心です。


2. 胚編集問題の象徴的事件

2018年、中国でCRISPRを用いたヒト胚編集が報告されました。

この研究を主導したのが
He Jiankui です。

CCR5遺伝子を改変した双子が誕生したと発表され、
世界的な非難と議論を引き起こしました。

この事件は、

技術が倫理的合意より先に進んだ

象徴的出来事でした。


3. 国際的な合意とガイドライン

多くの国・学術機関は、

  • 臨床目的の胚編集は現時点で容認しない
  • 基礎研究は厳格管理下で許容

という立場を取っています。

代表的議論の場:

  • World Health Organization
  • National Academy of Sciences

倫理議論は今も継続中です。


4. 問われている本質的問題

① 治療と強化(enhancement)の境界

  • 遺伝病治療は許容?
  • 身長や知能の強化は?

この線引きは文化や社会に依存します。


② 同意の問題

胚は将来の本人の同意を得られません。

不可逆的変更を加えることの正当性が問われます。


③ 不平等の拡大

高度医療が富裕層のみ利用可能になれば、

遺伝的階層社会

が生まれる懸念もあります。


5. 科学者の責任

遺伝子改変は、

  • 強力
  • 不可逆
  • 世代を超える影響を持つ

技術です。

研究者には、

  • 技術的安全性
  • 透明性
  • 社会的説明責任

が求められます。


6. 未来への視点

現在主流となっている方向性は:

  • 体細胞編集を中心に発展
  • 胚編集は国際的議論継続
  • 安全性データ蓄積を最優先

技術は止まりません。

だからこそ、

科学と倫理は同時に進む必要がある

のです。


シリーズまとめ

本シリーズでは:

  1. 遺伝子改変技術の歴史
  2. CRISPRの分子機構
  3. ノックアウト・ノックイン設計
  4. コンディショナル改変
  5. 切らないゲノム編集
  6. in vivo編集
  7. 倫理問題

を体系的に解説しました。

遺伝子改変技術は、
単なる研究ツールから、社会を変える力へと進化しています。

重要なのは、

「できること」と「すべきこと」を区別する知性

です。

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