1980年代中盤:シグナル伝達と免疫の統合理解
1984〜1987年は、
- 免疫系の遺伝的基盤
- 細胞間シグナル
- 代謝制御
が統合され、
細胞がどのように情報を受け取り、応答するか
が分子レベルで理解された時代です。
1984年
免疫遺伝子(MHC)の発見
1984年のノーベル生理学・医学賞は
- Niels Kaj Jerne
- Georges Köhler
- César Milstein
ではなく(これは1983年)、
実際には
- César Milstein
- Georges Köhler
の流れを受けた免疫学の発展期にあたります。
※正確には1984年医学賞は
- Niels Kaj Jerne
- Georges Köhler
- César Milstein
であり、抗体理論とモノクローナル抗体の確立が評価されました。
抗体多様性の理論
Jerneは
- 抗体レパートリー
- 免疫ネットワーク
という概念を提唱し、
免疫系が
自己組織化された情報ネットワーク
であることを示しました。
1985年
コレステロール代謝と受容体
1985年のノーベル生理学・医学賞は
- Michael S. Brown
- Joseph L. Goldstein
に授与されました。
LDL受容体の発見
彼らは
- LDL receptor
を発見し、
細胞がどのようにコレステロールを取り込むかを解明しました。
生活習慣病の分子理解
この研究により、
- 高コレステロール血症
- 動脈硬化
が
受容体異常という分子機構
で説明されるようになりました。
1986年
成長因子の発見
1986年のノーベル生理学・医学賞は
- Stanley Cohen
- Rita Levi-Montalcini
に授与されました。
細胞増殖を制御する分子
彼らは
- Nerve growth factor
- Epidermal growth factor
を発見しました。
シグナル伝達の本質
これにより、
細胞は外部からのシグナルによって
増殖・分化を制御される
ことが明確になりました。
1987年
抗体多様性の遺伝子機構
1987年のノーベル生理学・医学賞は
- Susumu Tonegawa
に授与されました。
遺伝子再構成の発見
利根川は
抗体遺伝子が
- 再構成(rearrangement)
によって多様性を生むことを発見しました。
可変性の分子基盤
これにより、
免疫系が
有限の遺伝子から無限の多様性を生む仕組み
が明らかになりました。
この4年間の科学的意義
1984〜1987年は、生命科学が
受容体・シグナル・遺伝子再構成
という三つの軸で統合された時代でした。
① 免疫系の情報システム化
抗体と免疫ネットワークの理解により、
免疫系は
高度な情報処理ネットワーク
として捉えられるようになりました。
② 受容体を中心とした医学
LDL受容体の発見により、
疾患は
シグナル受容の異常
として理解されるようになりました。
③ 成長因子と細胞運命
NGFやEGFの発見は、
細胞運命が外部シグナルに依存することを示しました。
④ 遺伝子再構成という革新
抗体遺伝子再構成の発見は、
ゲノムが
動的に再編成されるシステム
であることを示しました。
まとめ
| 年 | 受賞者 | 主題 |
|---|---|---|
| 1984 | Jerneら | 抗体理論 |
| 1985 | Brown & Goldstein | LDL受容体 |
| 1986 | Cohen & Levi-Montalcini | 成長因子 |
| 1987 | 利根川進 | 抗体遺伝子 |
1984〜1987年は
細胞が「受け取る・判断する・応答する」
という生命システムの核心が明らかになった時代でした。
次回予告
次回は
第22回:1988〜1991年
を解説します。
ここでは
- NO(一酸化窒素)シグナル
- 細胞周期制御
- PCR技術の普及
など、分子医学がさらに加速する時代に入ります。