はじめに:RNA-seqって何?
「RNA-seq(RNAシーケンシング)」とは、細胞の中でどの遺伝子がどれだけ発現しているかを、網羅的に調べることができる次世代シーケンス(NGS)技術です。
その中でも「バルクRNA-seq(bulk RNA-seq)」は、複数の細胞のRNAをまとめて解析する方法で、最も一般的かつコストパフォーマンスの良い解析手法です。
バルクRNA-seqとは?
バルクRNA-seqとは、
組織や細胞集団から抽出したRNAを一括で解析して、全体の遺伝子発現量を調べる方法
です。1細胞ごとではなく、**「集団の平均的な発現情報」**が得られます。
何がわかるの?バルクRNA-seqの目的
✅ どの遺伝子が発現しているか(有無)
✅ どのくらいの量で発現しているか(発現量)
✅ 病気や処理の有無での発現変化(DEG:差次的発現遺伝子)
例:正常 vs がん細胞で、がん特異的に高発現している遺伝子を同定できる
バルクRNA-seqの基本ステップ
- RNA抽出
細胞や組織からトータルRNAを取り出します。 - mRNAの濃縮(またはrRNA除去)
→ poly(A)選択やrRNA除去キットを使用して、解析対象のRNAに絞ります。 - cDNA合成
→ RNAをDNA(cDNA)に逆転写します。 - ライブラリ調製
→ シーケンスに適した断片化・アダプター付加を行います。 - 次世代シーケンサー(NGS)で解析
→ Illuminaなどの装置で数百万〜数千万リードを読み取ります。 - データ解析(バイオインフォマティクス)
→ マッピング、カウント、正規化、差次的発現解析(DESeq2, edgeRなど)
バルクRNA-seqのメリットとデメリット
✅ メリット
- 比較的安価・簡便
- 細胞集団全体の発現傾向がつかめる
- 組織レベルや動物モデルでも使いやすい
⚠ デメリット
- 細胞ごとの違いはわからない(平均化される)
- 少数派の細胞の情報は埋もれてしまう可能性がある
シングルセルRNA-seqとの違いは?
項目 | バルクRNA-seq | シングルセルRNA-seq |
---|---|---|
対象 | 細胞集団全体 | 一細胞ごと |
解像度 | 低い(平均) | 高い(細胞ごと) |
コスト | 安い | 高い |
難易度 | 低〜中 | 高(専門機器・解析スキル) |
どんな研究で使われている?
- ✅ がん研究(正常 vs 腫瘍の遺伝子発現比較)
- ✅ 創薬・薬剤応答の評価
- ✅ 発生・分化の過程の発現変化の把握
- ✅ 疾患バイオマーカー探索
バルクRNA-seqの解析でよく使うツール
- FastQC:リードの品質チェック
- STAR, HISAT2:リードのマッピング
- featureCounts, HTSeq:遺伝子ごとのカウント
- DESeq2, edgeR:差次的発現解析
- Enrichr, GSEA:経路・機能解析
まとめ:バルクRNA-seqは発現変化を見る強力なツール!
🔹 バルクRNA-seqは、細胞集団全体のRNA発現を網羅的に測定する技術
🔹 遺伝子のON/OFFや発現量の変化が数値でわかる
🔹 がんや感染症、分化など、あらゆる生物学的現象の解析に使われている
🔹 シングルセルと比べてコストが安く、汎用性が高い
よくある質問(FAQ)
Q. RNA-seqはRT-qPCRとどう違いますか?
→ RNA-seqは網羅的に全遺伝子の発現を一度に見る方法、RT-qPCRは特定の遺伝子のみを高精度に定量する方法です。
Q. なぜRNAをDNAに変えるのですか?
→ 次世代シーケンサーはRNAを直接読めないため、一度**cDNAに変換(逆転写)**してから解析します。
Q. 組織サンプルでも使えますか?
→ はい、可能です。ただし細胞の混在に注意が必要です。