はじめに
次世代シーケンサー(NGS)による解析は、がん研究から微生物叢の解析まで幅広く活用されています。その中で欠かせない工程が「ライブラリ調製」と「アダプター配列の付加」です。
「ライブラリって何?」「アダプターってなぜ必要なの?」
そう思ったことがある方へ向けて、本記事ではライブラリとアダプターの基本構造、役割、使用される技術まで、図解つきで丁寧に解説します。
ライブラリとは?
● ライブラリ=「シーケンスにかけるためのDNA断片のセット」
NGSでは、解析対象となるDNAやRNAを短い断片に切断し、アダプターを付加した状態で次世代シーケンサーにかけます。このアダプター付き断片の集合体が「ライブラリ」と呼ばれます。
● ライブラリを作る目的
- DNA断片化:解析対象の遺伝子やトランスクリプトを短く切断(例:200–500 bp)
- アダプター付加:PCR増幅やシーケンサーへの読み込みのために必要
- 均一な増幅・配列決定:断片の長さや構造を揃えることで、安定したシーケンスが可能になる
アダプターとは?
● アダプターは“タグ”や“取っ手”のようなもの
アダプターは人工的に合成された短いDNA配列で、ライブラリの両端に付加されます。
● アダプターの主な役割
役割 | 説明 |
---|---|
プライマー結合部位 | PCR増幅のためのプライマーがここに結合します |
フローセルへの結合 | シーケンサー(例:Illumina)のフローセルにDNAを固定するため |
バーコード(オプション) | 複数サンプルを同時に解析するための識別コード(インデックス) |
シーケンス開始点 | リーディング開始のための“導入部”の役割も果たす |
● 代表的なアダプターの例(Illumina)
- P5 / P7領域:フローセルへの結合部
- Read 1 / Read 2 プライマー結合部位:リードの配列読み取り開始点
- Index(インデックス):サンプル識別用バーコード
ライブラリ調製の流れ(例:RNA-seq)
- RNA抽出
↓ - mRNA選別(poly-A精製 or rRNA除去)
↓ - 断片化・逆転写(RNA→cDNA)
↓ - アダプター付加(ライゲーション or tagmentation)
↓ - PCR増幅
↓ - ライブラリ完成・品質確認(バイオアナライザーなど)
↓ - シーケンサーへ投入
Tagmentationとは?(補足)
最近のNGSキットでは、トランスポザー酵素を使って一度に断片化+アダプター付加を行う「Tagmentation」という方法が使われることもあります。
→ より高速・簡便にライブラリを作製できる技術です。
まとめ
- ライブラリとは「解析対象のDNA/RNA断片にアダプターを付加した集合体」
- アダプターは、PCR・シーケンサー固定・バーコード化など、解析の鍵を握る配列
- NGSでは、ライブラリとアダプターの設計が解析精度を大きく左右する
初心者がNGSを理解する上で、この「ライブラリとアダプター」の概念は絶対に外せません。正しく理解することで、RNA-seqやWGSの実験設計もより深く考察できるようになります。