シングルセルRNA-seqとは?
シングルセルRNAシーケンス(single-cell RNA sequencing / scRNA-seq)は、個々の細胞におけるmRNA(メッセンジャーRNA)発現を網羅的に解析する次世代シーケンス技術です。
従来のRNA-seqでは、組織全体や細胞群から抽出したRNAをまとめて解析するため、細胞間の違いは“平均化”されてしまいます。対してscRNA-seqは、1細胞単位でRNA発現を可視化できるため、同じ組織内でも異なる遺伝子プロファイルを持つ細胞の存在を明らかにできます。
シングルセルRNA-seqの特徴
- 🔬 個々の細胞の遺伝子発現を明らかに
- 🧠 細胞の多様性や分化状態を把握可能
- 🧬 細胞系譜(クローン)や発生過程を解析できる
- 🧪 がんや免疫系、神経系などの研究で革命的ツール
scRNA-seqの基本的な流れ
1. 単一細胞の分離
細胞を1つずつ分離する必要があります。方法には以下があります:
- FACS(蛍光活性細胞分取)
- マイクロ流体チップ(10x Genomicsなど)
- マイクロマニピュレーター
2. 細胞ごとのmRNA抽出・逆転写
各細胞からmRNAを抽出し、逆転写酵素(RT)でcDNA(相補DNA)へ変換します。
このとき、細胞ごとのバーコードや**UMI(Unique Molecular Identifier)**を付加することで、後からどのcDNAがどの細胞・どのmRNA由来かを識別できるようにします。
3. cDNAの増幅とライブラリ調製
得られたcDNAをPCRで増幅し、次世代シーケンサー(NGS)に適したライブラリを調製します。
4. シーケンス(配列決定)
IlluminaなどのNGSを用いて、バーコード付きcDNAをシーケンスします。
5. データ解析
- 各リードから細胞バーコードとUMIを認識
- マッピング(リファレンスゲノムへの位置合わせ)
- UMIによる重複排除と遺伝子ごとのカウント
- 発現マトリックス作成
- クラスタリング・次元圧縮(tSNE, UMAP)
- 細胞型推定や軌跡解析(trajectory analysis)
バルクRNA-seqとの違い
特徴 | バルクRNA-seq | シングルセルRNA-seq |
---|---|---|
対象 | 細胞集団 | 単一細胞 |
感度 | 平均化される | 細胞ごとの差異が見える |
データ量 | 少なめ | 非常に多い |
難易度 | 比較的簡単 | 技術的に高度 |
scRNA-seqが切り開く未来
- がん研究:がん幹細胞や薬剤耐性クローンの同定
- 再生医療:分化・発生の軌跡の解析
- 免疫学:免疫細胞の多様性と状態の把握
- 脳科学:神経細胞の分類やネットワーク理解
おわりに
シングルセルRNA-seqは、**「細胞レベルで生命を理解する」**ための強力なツールです。高感度・高解像度での遺伝子発現解析が可能になったことで、従来の見方を一変させる研究成果が次々と生まれています。
この技術を正しく理解し、目的に応じた設計や解析を行うことで、より深い生命現象の理解が進むでしょう。