はじめに:なぜscRNA-seqには複数の手法があるのか?
シングルセルRNA-seqは、1細胞ごとの遺伝子発現プロファイルを解析するための強力な技術です。
しかしその目的(例:大量の細胞をざっくり見る vs 少数細胞を高精度で解析)や、使用する機器、予算によって最適な手法が異なります。
そのため、現在では複数のscRNA-seq法が存在しています。
本記事では代表的な以下3手法を比較します:
- 10x Genomics Chromium(ドロップレット法)
- Smart-seq2(プレート法)
- Drop-seq(ドロップレット法)
比較表:scRNA-seq主要法の特徴一覧
特徴 | 10x Genomics Chromium | Smart-seq2 | Drop-seq |
---|---|---|---|
原理 | ドロップレット内でバーコード付与 | 各細胞をプレートで個別処理 | ドロップレット内でバーコード付与 |
必要機材 | 専用マイクロフルイディクス装置 | ピペット操作とPCR機材のみ | 自作ドロップレット生成装置 |
対象細胞数 | 数千~数十万細胞 | 数十~数百細胞 | 数千~万細胞 |
感度 | 中~高(UMIで定量性◎) | 非常に高い(全長mRNA) | 低~中 |
検出範囲 | mRNAの3’末端中心 | 全長mRNA | mRNAの3’末端中心 |
コスト | 高(1サンプル数十万円) | やや高(1細胞あたり高) | 低コストだが開発要素多 |
定量精度 | 高(UMIあり) | 非常に高(全長+高感度) | 中 |
アプリケーション例 | 細胞集団の網羅的解析 | 少数の稀少細胞の詳細解析 | 自作装置による大規模スクリーニング |
それぞれの技術の解説
1. 10x Genomics Chromium:業界標準のハイパフォーマンス技術
- 仕組み:1細胞とバーコード付きビーズを油滴(ドロップレット)内で一緒に閉じ込め、cDNAを合成。
- 特徴:
- 一度に数万細胞を処理可能
- 高スループットで操作も簡便(専用機器が必要)
- 3’ or 5’ 末端を検出するライブラリ構築が可能
- クローズドシステムだが再現性・精度は非常に高い
- おすすめ:網羅的な細胞タイプの分類・クラスタリング解析
2. Smart-seq2:全長トランスクリプトを高精度で取得
- 仕組み:1細胞を96 or 384ウェルプレートに分注し、mRNAを逆転写・PCR増幅。全長cDNAを得る。
- 特徴:
- 非常に高感度・高精度(全長mRNA検出可能)
- SNP解析やアイソフォーム解析にも対応
- 自由度が高く、特殊な遺伝子を狙いやすい
- 欠点:UMIがないため定量性はやや劣る
- おすすめ:希少細胞(幹細胞など)の詳細発現解析、遺伝子構造の変化解析
3. Drop-seq:コスパ重視のオープンソース技術
- 仕組み:1細胞とバーコード付きビーズを油滴内で閉じ込める。10xと似ているがオープンなシステム。
- 特徴:
- 低コストで大量細胞の解析が可能
- 自作装置が必要だが、自由度が高い
- 3’末端しか検出できないため一部の解析には不向き
- おすすめ:大規模スクリーニングや自作システムでの低予算研究
まとめ:どのscRNA-seq法を使うべき?
目的 | 推奨手法 |
---|---|
網羅的に数万細胞を解析したい | 10x Genomics |
少数の細胞を高感度で解析したい | Smart-seq2 |
低予算で大規模スクリーニングしたい | Drop-seq |