細胞の中には「DNA」という長い分子が詰まっています。DNAは、生物の形や働きを決める設計図そのもの。今回は、分子生物学の名著『Molecular Biology of the Cell』(アルバーツら著)の第4章をもとに、DNAと染色体の基本をやさしく解説します。
DNAとは何か?
DNA(デオキシリボ核酸)は、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という4種類の塩基の並びでできています。この塩基配列が、タンパク質をつくるための情報を持っています。
DNAは二重らせん構造で、1本のDNAは非常に長く、ヒトでは約2メートルにもなります。それがたった10μmほどの細胞核にどうやって収まっているのでしょうか?
DNAは「ヒストン」に巻きついて収納される
DNAはそのままでは巨大すぎて核内に入りません。そこで「ヒストン」というタンパク質に巻きつくことで、コンパクトにまとめられています。
- ヒストンに巻きついたDNAの単位を「ヌクレオソーム」と呼びます。
- ヌクレオソームが連なった構造を「クロマチン」と呼びます。
このようにしてDNAは、階層的に折りたたまれ、最終的には「染色体」という形になります。
クロマチンの2つの状態
クロマチンには2つの状態があります:
- ユークロマチン:ゆるく折りたたまれており、遺伝子が活性化しやすい。
- ヘテロクロマチン:ぎゅっと圧縮されており、遺伝子が抑制されていることが多い。
この構造の違いによって、どの遺伝子が働くかが決まります。
染色体とは何か?
細胞分裂のときに現れる「染色体」は、DNAが最もコンパクトに折りたたまれた姿です。
- ヒトには23対、合計46本の染色体があります。
- 染色体の中央には「セントロメア」、端には「テロメア」があります。
- 染色体の特定の位置に「遺伝子」が配置されています。
染色体は、細胞が分裂して新しい細胞になる際に、正確にDNAを受け渡すために重要な構造です。
エピジェネティクス:染色体構造が遺伝子の運命を変える?
近年注目されているのが「エピジェネティクス」という概念です。DNAの配列は変えずに、ヒストンの修飾やクロマチン構造の変化によって、遺伝子の発現がコントロールされるのです。
たとえば:
- アセチル化 → クロマチンが開き、遺伝子がONに
- メチル化 → クロマチンが閉じ、遺伝子がOFFに
こうした修飾は、環境やライフスタイルの影響を受けて変化することもあります。
まとめ:DNAと染色体は生命の土台
DNAは生物にとっての「設計図」。しかし、それを正しく読み取り、収納し、必要なタイミングで使えるようにするには、染色体というパッケージングが不可欠です。
染色体の構造がわかることで、病気のメカニズムや、がん細胞の異常な遺伝子発現、さらには再生医療の可能性まで見えてくるのです。
参考文献:
本記事は『Molecular Biology of the Cell(第6版)』の第4章「DNAと染色体」に基づいて構成されています。内容は教育目的の要約であり、著作権を尊重した形で記載しております。