私たちの体は、絶えず新しい細胞を生み出しています。その際、DNAも正確にコピーされて次の世代に受け渡されなければなりません。今回は、分子生物学の名著『Molecular Biology of the Cell(Alberts)』第5章から、DNA複製・修復・組換えの仕組みをわかりやすく紹介します。
DNAの複製はいつ、どこで起きる?
DNA複製は細胞周期の「S期(合成期)」に行われます。この過程では、2本鎖のDNAがほどかれ、それぞれを鋳型にして新しい鎖が合成されます。
重要な構成要素は次の通りです:
- ヘリカーゼ:DNAをほどいて2本鎖を1本鎖にする
- DNAポリメラーゼ:新しいヌクレオチドを付け加えて鎖を伸ばす
- プライマー(RNA):合成の出発点を示す
- リガーゼ:断片をつなぐ酵素(特にラギング鎖側)
DNAは5’→3’方向にしか合成できないため、一方の鎖(リーディング鎖)は連続的に、もう一方(ラギング鎖)は短い「岡崎フラグメント」として不連続に合成されます。
複製はどうやって正確さを保っている?
DNAポリメラーゼは非常に高い正確さでDNAをコピーしますが、それでもエラーは起きます。そこで活躍するのが校正機能(proofreading)と修復機構です。
- 校正機能:DNAポリメラーゼ自体に誤ったヌクレオチドを切り取る機能がある
- ミスマッチ修復(MMR):複製後に塩基の対合ミスを認識し、正しい配列に戻す
これらにより、DNA複製のエラー率は約10億塩基に1つ程度という極めて高精度に保たれています。
DNAはどうやって「損傷」から守られているのか?
紫外線や放射線、活性酸素などによってDNAは常に損傷を受けています。放置すればがんや遺伝病の原因になりますが、細胞にはこれを修復するシステムが備わっています。
主な修復機構は次のとおりです:
- 塩基除去修復(BER):1つの塩基が損傷した場合に除去して修復
- ヌクレオチド除去修復(NER):紫外線によるピリミジンダイマーなどを切り取る
- 二本鎖切断修復:
- 非相同末端結合(NHEJ):切断部位を直接つなぐ(正確性低め)
- 相同組換え修復(HR):姉妹染色分体を鋳型に正確に修復
とくにHRは、正確な修復が求められる細胞周期S期やG2期で活発になります。
組換えとは?多様性と修復の鍵
**組換え(recombination)**とは、DNA同士が物理的に交換される現象で、遺伝的多様性を生むと同時に、DNA修復にも関わる重要なプロセスです。
- 減数分裂時の交差(クロスオーバー):父母由来の染色体間で配列が交換される
- 相同組換え修復:同一または類似したDNA配列を使って正確に損傷を修復
また、ウイルスの組換えや、免疫系での抗体多様性の生成にもこの仕組みが応用されています。
なぜこの章は重要か?
この章の内容は、以下のような医学・研究分野と密接に関係しています:
- がん研究(例:BRCA1/2はHR修復に関わる)
- 遺伝病の原因遺伝子解析
- 遺伝子工学におけるターゲット編集
- ゲノム安定性に関する新薬開発
正確なDNAの維持は、生命の「継続性」と「進化性」の両方を支える柱なのです。
まとめ
- DNA複製は細胞分裂前に高精度に行われる
- エラーを防ぐ校正機能と修復機構が備わっている
- DNA損傷は多様な修復システムで処理される
- 組換えは遺伝的多様性とDNA修復の両方を支える
- これらの仕組みは生命の安定性と進化の両方に貢献している
参考・引用について:
本記事は『Molecular Biology of the Cell(第7版, Alberts et al.)』第5章「DNA Replication, Repair, and Recombination」に基づき、教育目的に要約・再構成したものです。著作権法第32条に基づき、原著の表現や図を直接引用することなく、読者の理解を促すために独自の解説として掲載しています。