【第13章】細胞内物流ネットワーク:膜トラフィックの全貌

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細胞は、外から取り込んだ物質をただ溜め込んでいるわけではありません。むしろ、常に「何を、どこに、どのように」運ぶかという高度な物流ネットワークを持っています。これが**膜トラフィック(membrane traffic)**と呼ばれる仕組みです。

小胞輸送の基本戦略

膜トラフィックの基本単位は**小胞(vesicle)**です。細胞内では、以下のような順で物質が移動します:

  1. 出発点(ドナー膜)で小胞が形成される。
  2. 小胞が目的地まで移動
  3. ターゲット膜と融合して、内容物を送り届ける。

この一連の流れは、例えば小胞体(ER)からゴルジ体へ、あるいは細胞膜からエンドソームへというように、厳密なルートが定められています。

被覆小胞:コートタンパク質による選別

小胞形成には、内容物や膜タンパク質を選び出すコートタンパク質が関与します。代表的なのは以下の通りです:

  • COPII:ERからゴルジ体への輸送に関与。
  • COPI:ゴルジ体からERへの逆輸送。
  • クラシリン(clathrin):細胞膜からエンドソーム、ゴルジ体からエンドソームへの輸送。

ターゲティング:SNAREとRabによる精密誘導

小胞が正しい場所に融合するには、「住所」を確認する分子が必要です。

  • Rabタンパク質:小胞の方向付けをするGTPase。小胞が正しいターゲット膜に近づくのを助けます。
  • SNAREタンパク質:融合そのものを担う膜貫通タンパク質で、v-SNARE(小胞)とt-SNARE(ターゲット膜)が鍵と鍵穴のように一致することで融合が起こります。

エンドサイトーシスとエキソサイトーシス

  • エンドサイトーシス:細胞外の物質を取り込むプロセス。被覆小胞を使って内側に取り込み、エンドソームに送ります。
  • エキソサイトーシス:細胞内で合成・加工された物質を外部に放出する過程です。ゴルジ体から細胞膜へと小胞が輸送され、融合して内容物が外に出されます。

エンドソームとリソソーム:取り込んだ後の運命

取り込まれた物質はエンドソームを経由し、不要なものはリソソームで分解されます。一方、必要なものは再利用されるか、ゴルジ体へと運ばれます。


まとめ

細胞の内部は、目に見えないながらも非常に精緻な物流システムで構成されています。膜トラフィックの仕組みを理解することは、細胞がどのように秩序を保ち、動的な機能を果たしているかを知る手がかりとなります。輸送の正確さは、細胞の生死や機能全体に直結するほど重要な要素です。


※この記事は『Molecular Biology of the Cell』(Albertsら著)の第13章を参考に、個人の学習用・解説目的で要点を整理したものです。著作権に配慮し、記述内容は原著の要約および再構成にとどめています。

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