【第14章】エネルギーを操る細胞の発電所:ミトコンドリアと葉緑体の仕組み

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細胞にとってのエネルギーとは何か?

細胞は、生きるためにエネルギーを絶えず消費しています。DNAの複製、タンパク質合成、分泌、シグナル伝達、さらには細胞分裂に至るまで、**ATP(アデノシン三リン酸)**という化学エネルギー分子が中心的に使われています。

このATPを効率よく生み出す場所が、ミトコンドリア葉緑体です。


ミトコンドリア:酸素呼吸による発電所

ミトコンドリアは、すべての真核細胞に存在する細胞内小器官で、酸素呼吸によって有機物(主にグルコース)からATPを合成します。

■ 主な機構

  1. 基質の分解(TCA回路)
     ピルビン酸や脂肪酸がミトコンドリアでアセチルCoAとなり、TCA回路でNADHやFADH₂に変換されます。
  2. 電子伝達系とプロトンポンプ
     内膜にある電子伝達系が、NADHやFADH₂から電子を取り出し、酸素まで渡して水を作ります。この過程で、H⁺(プロトン)を膜間スペースに汲み上げることで、プロトン勾配を形成します。
  3. ATP合成酵素(ATP synthase)
     プロトンが濃度勾配に従って内膜を通過するとき、そのエネルギーを使って**ATPが合成される(酸化的リン酸化)**のです。

■ ミトコンドリアの特徴

  • 独自のDNA(mtDNA)をもち、自己複製可能。
  • 母系遺伝で伝わる。
  • 二重膜構造:外膜・内膜(クリステ構造)

葉緑体:太陽光をエネルギーに変換する

植物細胞に特有の葉緑体は、光合成によって太陽エネルギーを化学エネルギーに変換します。これは地球上で最も重要なエネルギー供給システムともいえます。

■ 光合成の2ステップ

  1. 光化学反応(チラコイド膜)
     光によって水が分解され、電子が電子伝達系を通ってNADPHが生成されます。同時に、プロトンがチラコイド内に蓄積され、ATPも合成されます(光リン酸化)。
  2. カルビン回路(ストロマ)
     ATPとNADPHを使って、CO₂から糖を合成します。

■ 葉緑体の特徴

  • 独自のDNAとリボソームを持ち、細胞内共生の名残を示します。
  • 内部にチラコイド膜(光合成の主戦場)とストロマ(カルビン回路の場)を持つ。
  • ミトコンドリア同様、二重膜構造。

ミトコンドリアと葉緑体の共通点と違い

特徴ミトコンドリア葉緑体
エネルギー源有機物(糖・脂肪)太陽光
生成物ATPATP、NADPH、糖
独自DNAありあり
二重膜ありあり
特徴的膜構造クリステ(内膜のひだ)チラコイド

まとめ

ミトコンドリアと葉緑体は、それぞれが異なる方法で生命の燃料であるATPを合成する仕組みを備えています。このエネルギー変換システムは、細胞の代謝を根本から支え、私たちの生命活動のあらゆる局面に関与しています。

エネルギーの効率的な変換こそが、細胞の持続的な活動を保証する鍵であり、進化の過程で最も洗練された分子機構の一つと言えるでしょう。


※本記事は『Molecular Biology of the Cell(Alberts)』第14章に基づき、教育的観点から要点を整理した内容です。著作権に配慮し、原著の文章表現は用いずに構成しています。学習・研究用途にご利用ください。

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