【第16章】細胞のインフラストラクチャー:細胞骨格の世界

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細胞は、液体の袋のように見えて、実は驚くほど精緻な内部構造を持っています。その中心的な役割を果たしているのが「細胞骨格(cytoskeleton)」です。これは細胞内に張り巡らされたタンパク質繊維のネットワークであり、構造の維持や細胞運動、分裂、物質輸送に欠かせません。


細胞骨格を構成する3つの主要な繊維

細胞骨格は、以下の3種類の繊維から成り立っています。それぞれ構造も機能も異なりますが、連携して細胞の力学的性質や内部輸送を支えています。

1. アクチンフィラメント(microfilaments)

  • 直径:約7nm(最も細い)
  • 主成分:アクチン(G-アクチンが重合してF-アクチンに)
  • 主な機能
    • 細胞の形の維持と変化(例:ラメリポディアの形成)
    • ミオシンとの相互作用による細胞収縮や移動
    • エンドサイトーシスやエクソサイトーシスの支援
  • :筋肉細胞では、ミオシンとの相互作用で筋収縮に関与。

2. 微小管(microtubules)

  • 直径:25nm(最も太い)
  • 主成分:チューブリン(α-チューブリンとβ-チューブリンのヘテロダイマー)
  • 主な機能
    • 細胞小器官や小胞の輸送路(ダイニン・キネシンが移動)
    • 細胞分裂時の紡錘糸形成
    • 細胞の極性の維持
  • :神経細胞で軸索輸送に利用される。

3. 中間径フィラメント(intermediate filaments)

  • 直径:約10nm(中間の太さ)
  • 主成分:ケラチン、ビメンチン、ニューロフィラメントなど細胞種によって異なる
  • 主な機能
    • 細胞の機械的強度の付与
    • 核膜を支えるラミン構造
  • :皮膚細胞でのケラチンによる強度付与。

動的な構造:成長と再構築

細胞骨格は「固定された骨」ではありません。常に組み替えられ、成長・収縮を繰り返します。このダイナミズムこそが、細胞移動や分裂といった生命現象を可能にしています。

  • アクチンや微小管は「+端」と「−端」を持ち、動的な重合・脱重合が起こる
  • 細胞外シグナルに応じて、構造が瞬時に変化する(例:走化性)

細胞骨格と細胞運動

細胞骨格の力を利用して、細胞は周囲の環境に応じて移動したり形を変えたりします。

  • ラメリポディア、フィロポディアの形成:アクチンの重合によって膜を押し出す。
  • 筋収縮やアメーバ運動:アクチン-ミオシン系の力学。
  • 繊毛・鞭毛の運動:微小管とダイニンの相互作用。

病気との関わり

細胞骨格の異常は、がん細胞の遊走性増加や、神経変性疾患(アルツハイマー病など)、皮膚疾患など、多くの病態に関わります。研究が進むことで、細胞骨格を標的とした治療法の可能性も見えてきました。


まとめ

細胞骨格は「細胞の構造材」というイメージ以上の働きをしています。輸送、高速移動、分裂、形の変化など、細胞のダイナミックな営みの中核をなす存在です。その可塑性と統制された構造変化は、まさに「生きた骨格」と呼ぶにふさわしいものです。

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