自然免疫から獲得免疫への移行:分子メカニズムの詳細

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はじめに

ウイルス感染において、まず自然免疫が即時的に反応し、感染拡大を抑えます。しかし完全なウイルス排除には、特異性の高い獲得免疫(adaptive immunity)が必須です。ここでは、自然免疫の応答がどのようにして獲得免疫へと橋渡しされるのかを、分子生物学の観点から整理します。


1. 自然免疫による「危険シグナル」の発信

自然免疫細胞はウイルス感染を感知すると、サイトカインやケモカインを分泌します。これが獲得免疫の誘導に直結します。

  • Ⅰ型インターフェロン(IFN-α/β):抗ウイルス状態を作りつつ、樹状細胞やT細胞を活性化
  • 炎症性サイトカイン(IL-1β, TNF-α, IL-6):局所炎症を引き起こし、免疫細胞を呼び込む
  • ケモカイン(CCL2, CXCL10など):リンパ球や樹状細胞をリンパ節へ誘導

これにより「感染が起きている」というシグナルが全身に伝達されます。


2. 樹状細胞(DC)の成熟と抗原提示

獲得免疫への移行の主役は**樹状細胞(dendritic cell)**です。

  • 抗原取り込み:樹状細胞は感染組織でウイルスやその断片をエンドサイトーシス/マクロピノサイトーシスで取り込みます。
  • 成熟シグナル:PRR(RIG-I, TLRなど)の刺激により、樹状細胞は「成熟」し、MHC分子や共刺激分子を高発現します。
    • MHCクラスⅠ:ウイルス由来ペプチドをCD8⁺ T細胞へ提示
    • MHCクラスⅡ:貪食したウイルス抗原をCD4⁺ T細胞へ提示
    • 共刺激分子(CD80/CD86):T細胞活性化に必須
  • 移動:成熟樹状細胞はリンパ管を通って所属リンパ節へ移動します。

3. ナイーブT細胞の活性化

リンパ節に到達した樹状細胞は、ナイーブT細胞と接触して獲得免疫を開始します。

  • シグナル1:TCR(T細胞受容体)がMHC-抗原ペプチド複合体を認識
  • シグナル2:共刺激分子(CD80/CD86とCD28の結合)
  • シグナル3:サイトカイン(IL-12, IFN-α/βなど)がT細胞の分化方向を決定

この三段階のシグナルでT細胞は初めて「完全活性化」されます。


4. エフェクターT細胞への分化

活性化されたT細胞は、サイトカイン環境に応じて多様なエフェクター細胞に分化します。

  • CD8⁺ T細胞(細胞傷害性T細胞, CTL)
    • 感染細胞のMHCクラスⅠ上の抗原を認識し、パーフォリンやグランザイムで細胞を破壊
  • CD4⁺ T細胞(ヘルパーT細胞)
    • Th1:IFN-γを分泌しCTLやマクロファージを活性化
    • Th2:B細胞を助け抗体産生を誘導
    • Th17:炎症を促進し好中球を動員
    • Tfh:B細胞に抗体親和性成熟を促す

5. B細胞の活性化と抗体産生

自然免疫シグナルはB細胞にも影響しますが、本格的な抗体応答にはT細胞の助けが不可欠です。

  • 抗原受容体(BCR)による抗原結合 → B細胞が抗原を取り込み、MHCクラスⅡで提示
  • ヘルパーT細胞との相互作用(CD40-CD40L、IL-21など)
  • 胚中心反応(germinal center reaction)により
    • クラススイッチ(IgM → IgG/IgA/IgE)
    • 体細胞超変異による高親和性抗体の獲得
  • 形質細胞が抗体を分泌し、体液性免疫が成立

6. 獲得免疫の記憶形成

自然免疫は即時的ですが短期的。一方、獲得免疫では以下の「免疫記憶」が確立されます。

  • メモリーT細胞:再感染時に迅速に反応
  • メモリーB細胞:高親和性抗体を素早く産生
  • 長寿命形質細胞:骨髄に残り持続的に抗体を供給

これにより再感染時の免疫応答はより早く、強力に発動します。


まとめ

ウイルス感染後、自然免疫が「即時的な防御」と「危険シグナルの発信」を担い、それを受けて樹状細胞が抗原を提示し、T細胞・B細胞が活性化されます。

すなわち、

  1. 自然免疫 → PAMPs認識・インターフェロン・炎症反応
  2. 樹状細胞成熟 → 抗原提示・共刺激分子発現
  3. T細胞活性化 → CD8⁺/CD4⁺ T細胞分化
  4. B細胞活性化 → 抗体産生・クラススイッチ
  5. 免疫記憶形成

というシーケンスで、自然免疫から獲得免疫へとスムーズに切り替わります。

免責事項
本記事は教育・情報提供を目的としたものであり、診断・治療の指針ではありません。実際の治療方針は医療機関でご相談ください。

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