特殊染色とは?
特殊染色(special stains)は、H&E染色だけでは区別しにくい組織や分子成分を可視化するための染色法です。
例えば、糖質・膠原線維・弾性線維・沈着物などを選択的に染め分けることができます。
病理診断では、腫瘍の背景変化(線維化、沈着、壊死など)や感染症の確認に欠かせません。
主な特殊染色とその特徴
1. PAS染色(Periodic Acid-Schiff反応)
- 対象:多糖類(グリコーゲン、ムコ多糖、糖タンパク)
- 仕組み:過ヨウ素酸で糖を酸化 → アルデヒド基を作る → Schiff試薬と反応して赤紫に発色
- 臨床応用:真菌検出、腎糸球体基底膜の評価、糖原病の診断
2. Masson’s trichrome染色
- 対象:膠原線維と筋肉の識別
- 染まり方:
- 核:黒~濃紫
- 筋肉・細胞質:赤
- 膠原線維:青または緑
- 臨床応用:肝線維化の評価、心筋梗塞後の線維化、腫瘍の間質解析
3. Elastica染色(弾性線維染色)
- 対象:弾性線維
- 仕組み:弾性線維に親和性のある色素(オルセインやレゾルシンフクシン)で染色
- 臨床応用:動脈硬化や血管病変の診断、腫瘍血管の評価
4. その他の代表例
- Congo red染色:アミロイド沈着を赤橙色に染め、偏光顕微鏡で緑色に光る特徴あり
- Sudan染色 / Oil Red O染色:脂肪の染色(凍結切片で利用)
- Grocott染色:真菌の染色(黒色に強調)
特殊染色の役割
- 病理診断の補助:H&E染色で得られない情報を補う
- 疾患の特徴づけ:線維化、沈着、感染などの有無を確認
- 研究応用:病変の背景や組織リモデリングを解析
まとめ
特殊染色は、H&E染色で見えない「組織や成分の質的な違い」を浮き彫りにする強力なツールです。
- PAS染色:糖質や真菌の検出
- Masson’s trichrome:線維化や膠原線維の評価
- Elastica染色:血管や弾性線維の観察
- その他:アミロイド、脂肪、真菌なども選択的に染色可能
病理診断において「見落としを防ぐ補助的役割」を果たし、研究では組織の変化を精密に理解するために用いられます。