血管形成の起源
血管は中胚葉由来で、血管新生(angiogenesis) と 血管芽生(vasculogenesis) の2つのプロセスを通じて発生します。
- 血管芽生(第3週〜): 血島(blood island)から内皮細胞が分化し、一次的な血管網が形成。
- 血管新生(第4週〜): 既存の血管から分枝や吻合が起こり、複雑なネットワークが発展。
動脈系の発生
- 第3〜4週
- 原始大動脈(左右の背側大動脈)が形成。
- 心臓の動脈幹から左右の**動脈弓(aortic arches)**が出現し、背側大動脈と連結。
- 第4〜6週
- 動脈弓は一時的に6対存在するが、その多くは退縮または変化。
- それぞれが成人の主要血管へ分化:
- 第3動脈弓 → 内頸動脈
- 第4動脈弓 → 大動脈弓(左)、右鎖骨下動脈(右)
- 第6動脈弓 → 肺動脈・動脈管
- 第7〜8週
- 背側大動脈が融合して胸部〜腹部大動脈を形成。
- 腹部から枝分かれし、腎動脈・腸間膜動脈など臓器血管が分化。
静脈系の発生
- 第4週
- 前主静脈(頭部)と 後主静脈(下半身)が形成され、総主静脈を介して心臓に流入。
- 卵黄静脈・臍静脈も存在し、胎盤・卵黄嚢からの血流を担う。
- 第5〜7週
- 複雑な静脈吻合と退縮が進む。
- 最終的に以下に整理:
- 上大静脈:前主静脈の右側成分から形成。
- 下大静脈:後主静脈、卵黄静脈、肝静脈など複数由来が統合。
- 門脈系:卵黄静脈の改変により形成。
- 肝循環:臍静脈が肝静脈と連結し、胎盤血流を肝に導入。
- 第8週以降
- 臍静脈の左側のみが残存し、出生時に閉鎖して「円靭帯」となる。
リンパ系の発生
- 第5週
- 静脈系の近くに リンパ嚢(lymph sac) が出現(頸部・腸間膜・腰部など)。
- 内皮細胞がリンパ管系に分化。
- 第6〜7週
- リンパ嚢からリンパ管が伸長し、全身にネットワークを形成。
- 胸管と右リンパ管の前駆構造が出現。
- 第8週以降
- リンパ節の原基がリンパ嚢に沿って形成。
- 免疫系の発達とともに成熟。
分子シグナル
- VEGF-C / VEGFR-3: リンパ管新生を制御。
- PROX1: 静脈内皮からリンパ内皮への分化を誘導。
- NOTCH, SHH, FGF: 動脈・静脈の運命決定に関与。
臨床的意義
- 動脈管開存症(PDA): 第6動脈弓由来の動脈管が出生後も閉鎖しない。
- 大血管転位症: 動脈幹・円錐幹の分離異常。
- 門脈異常: 卵黄静脈の再構築不全。
- リンパ管奇形(リンパ管腫など): PROX1やVEGF-Cのシグナル異常。
まとめ
- 動脈系は動脈弓を経て大動脈・頸動脈・肺動脈に分化。
- 静脈系は複雑な退縮と再構築で上大静脈・下大静脈・門脈を形成。
- リンパ系は第5週に静脈から分岐して発生し、胸管・リンパ節へと成長。
- 発生学的理解は、先天性心血管疾患やリンパ管異常の診断・治療に直結する。