感染症診療では、起因菌の想定と薬剤の組織移行性を意識した抗菌薬選択が重要です。外来や訪問診療の場面では、入院加療が必要かどうかの判断に加え、初期治療薬の適切な選択が診療の質を大きく左右します。以下に臓器別の抗菌薬の使い分けを整理します。
呼吸器感染症
- 上気道感染(急性咽頭炎・副鼻腔炎など)
多くはウイルス性。溶連菌を疑う場合はペニシリン系(アモキシシリン)。 - 市中肺炎
第一選択はニューキノロン系(レボフロキサシン)またはマクロライド系(クラリスロマイシン)。基礎疾患がある場合や重症例ではβラクタム+マクロライド併用も考慮。
尿路感染症
- 単純性膀胱炎
第一選択はニューキノロン系(レボフロキサシン)やST合剤。再発例では耐性菌の可能性に注意。 - 腎盂腎炎(軽症例)
外来対応可能な場合はニューキノロン系経口。発熱・全身状態不良なら入院し点滴加療。
皮膚・軟部組織感染症
- 蜂窩織炎
ブドウ球菌・レンサ球菌を想定。第一選択はセフェム系第1世代(セファゾリン、セファレキシン)。MRSAリスクが高い場合はST合剤やクリンダマイシンを考慮。 - 褥瘡感染
嫌気性菌も関与するため、アモキシシリン・クラブラン酸やクリンダマイシン+ニューキノロンを検討。
胆道感染症
- 軽症の胆嚢炎・胆管炎
外来ではセフェム系第3世代(セフトリアキソン)やフルオロキノロン系(シプロフロキサシン)を使用する場合もある。ただし入院管理が望ましいケースが多い。
消化器感染症
- 細菌性腸炎
多くは自然軽快するため抗菌薬不要。重症例や免疫不全ではニューキノロン系を短期投与。
実臨床でのポイント
- 地域の耐性菌動向を意識する
- 腎機能・肝機能に応じて投与量を調整する
- 初期治療はできる限り狭域スペクトラム薬から
本記事は一般的な医療知識の整理であり、実際の診療判断は患者さんの状態・検査所見・地域の耐性菌状況などを踏まえ、必ず主治医の判断に従ってください。