高齢者に多い感染症と抗菌薬の使い分け(外来・訪問診療向け)

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高齢者では免疫機能の低下、基礎疾患や嚥下機能低下、褥瘡などにより感染症リスクが高まります。外来や訪問診療では、限られた情報の中で早期に適切な抗菌薬を選ぶことが求められます。以下に高齢者に多い疾患ごとに整理します。


呼吸器感染症(肺炎・誤嚥性肺炎)

  • 市中肺炎
     第一選択はニューキノロン系(レボフロキサシン)やβラクタム系(アモキシシリン)。基礎疾患を有する例ではセフェム系第3世代を使用することもあります。
  • 誤嚥性肺炎
     嫌気性菌を想定し、アモキシシリン・クラブラン酸やセフトリアキソン+メトロニダゾールを使用。再発予防には嚥下訓練や口腔ケアが重要です。

尿路感染症(膀胱炎・腎盂腎炎)

  • 単純性膀胱炎
     ニューキノロン系(レボフロキサシン)、ST合剤を使用。ただし再発例や介護施設入所例では耐性菌を想定。
  • 腎盂腎炎
     全身状態が安定していれば外来でニューキノロン系経口も可能ですが、発熱・嘔気・脱水を伴う場合は入院点滴加療が望ましい。

皮膚・軟部組織感染症(蜂窩織炎・褥瘡感染)

  • 蜂窩織炎
     セフェム系第1世代(セファレキシン)が第一選択。MRSAリスクが高い場合はST合剤やクリンダマイシンを検討。
  • 褥瘡感染
     嫌気性菌を想定し、アモキシシリン・クラブラン酸、またはセフトリアキソン+クリンダマイシンなどを選択。デブリードマンや圧迫予防も並行して行うことが重要。

胆道感染症(胆嚢炎・胆管炎)

  • 高齢者に多く、基礎疾患で手術リスクも高いことが多い。
  • 軽症例ではセフトリアキソンやフルオロキノロン系(シプロフロキサシン)で外来対応可能な場合もありますが、原則は入院加療を推奨。

高齢者感染症診療の注意点

  1. 腎機能・肝機能に応じた投与量調整
  2. 脱水・低栄養・嚥下障害を背景因子として評価
  3. 抗菌薬の長期投与は耐性菌リスクを高めるため最小限に
疾患(部位)想定される主な起因菌外来・訪問での第一選択薬補足・注意点
肺炎(市中肺炎)肺炎球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマレボフロキサシン、アモキシシリン重症例はセフェム系第3世代+マクロライド併用も考慮
誤嚥性肺炎嫌気性菌、口腔内常在菌アモキシシリン・クラブラン酸、セフトリアキソン+メトロニダゾール口腔ケア・嚥下訓練が再発予防に重要
単純性膀胱炎大腸菌、クレブシエラ属レボフロキサシン、ST合剤再発例・施設入所例では耐性菌を想定
腎盂腎炎(軽症)大腸菌、腸内細菌科レボフロキサシン(経口)発熱・全身状態不良なら入院点滴加療
蜂窩織炎化膿レンサ球菌、黄色ブドウ球菌セファレキシン(第1世代セフェム)MRSAリスク例ではST合剤やクリンダマイシンを考慮
褥瘡感染ブドウ球菌、腸内細菌科、嫌気性菌アモキシシリン・クラブラン酸、セフトリアキソン+クリンダマイシンデブリードマン・体位変換など非薬物療法も必須
胆道感染症(胆嚢炎・胆管炎)腸内細菌科、嫌気性菌セフトリアキソン、シプロフロキサシン外来で扱えるのは軽症例のみ、原則は入院管理

本記事は一般的な医療知識を整理したものであり、診断や治療方針の決定には必ず主治医の判断を仰いでください。患者さんの状態や地域の耐性菌状況によって適切な対応は異なります。

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