【免疫細胞シリーズ②】マクロファージ:免疫の司令塔と清掃員

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
Pocket

はじめに:マクロファージとは

マクロファージ(macrophage)は、ギリシャ語で「大食細胞」を意味します。その名の通り、細菌や老廃細胞を“食べて”除去する貪食能を持つ細胞で、自然免疫の最前線に位置します。
しかし単なる「掃除屋」ではなく、炎症を誘導・鎮静化し、さらには組織修復やがん免疫の制御など、多彩な生理機能を担う極めて重要な免疫細胞です。


マクロファージの起源と分化

マクロファージは主に2つの起源を持ちます:

  1. 骨髄由来モノサイト経路
    骨髄で作られた単球(monocyte)が血液中を循環し、炎症や損傷部位に遊走してマクロファージへと分化します。
  2. 胎生期由来の常在マクロファージ
    胎生期に発生し、肝臓・肺・脳などに定着して一生を通じて維持されるタイプです。
    例:
    • 肝臓:クッパー細胞(Kupffer cell)
    • 肺:肺胞マクロファージ
    • 脳:ミクログリア
    • 脾臓・リンパ節:辺縁帯マクロファージ

これらのマクロファージは、臓器ごとに異なる環境シグナルに応答して独自の遺伝子発現パターンを持ち、組織恒常性の維持に寄与します。


M1・M2マクロファージの機能的分極

マクロファージは環境刺激に応じて、機能的に大きく2つの型へ分化します。

分類主な刺激主な機能分泌サイトカイン
M1型(古典的活性化型)IFN-γ、LPS炎症誘導、病原体排除、腫瘍抑制IL-1β、IL-6、TNF-α、IL-12
M2型(代替的活性化型)IL-4、IL-13組織修復、抗炎症、腫瘍促進IL-10、TGF-β、VEGF

M1とM2は一方的な分類ではなく、実際の生体内ではその中間や可塑的な状態が存在します。
たとえば、がん組織内のマクロファージ(TAM: tumor-associated macrophage)は多くの場合M2様の性質を示し、腫瘍の免疫抑制や血管新生を助長します。


主な役割

マクロファージの機能は非常に多岐にわたります。

① 貪食作用

細菌・アポトーシス細胞・異物などを取り込み、リソソームで分解します。
この過程で抗原情報を得て、次の免疫応答へと繋げます。

② 抗原提示

マクロファージは貪食した異物の断片(抗原)をMHCクラスII分子に提示し、T細胞を活性化します。これにより、自然免疫から獲得免疫への橋渡しが行われます。

③ サイトカイン産生

炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-αなど)を放出し、感染部位への免疫細胞の動員や炎症反応の制御を行います。

④ 組織修復・線維化

炎症の終息期には、損傷組織の修復を促進する因子(TGF-β、VEGFなど)を分泌し、血管新生や線維芽細胞の活性化を誘導します。


マクロファージと疾患の関係

1. 感染症

マクロファージは細菌やウイルスを貪食して排除しますが、一部の病原体(例:結核菌、HIV)はマクロファージ内で生存・増殖する能力を持ちます。

2. 慢性炎症

過剰なM1活性は自己免疫疾患や慢性炎症(関節リウマチ、動脈硬化など)を引き起こします。

3. がん

腫瘍関連マクロファージ(TAM)はがん微小環境の中心的プレイヤーです。
TAMはVEGFやMMPを分泌して腫瘍血管新生や転移を促進し、免疫抑制性サイトカイン(IL-10、TGF-β)によりT細胞応答を抑制します。
このため、TAMを標的とした抗腫瘍免疫療法(例:CSF1R阻害、CCR2阻害など)が注目されています。


マクロファージの可塑性と新たな研究動向

最新研究では、マクロファージが環境に応じて柔軟に機能を切り替える「可塑性」が注目されています。
がん、代謝疾患、組織再生、老化など、多様な文脈でマクロファージの役割が再定義されつつあります。
特に、単一細胞解析や空間トランスクリプトミクスを用いた研究により、組織常在型マクロファージの分子特徴が次々と明らかになっています。


まとめ

マクロファージは、感染防御・免疫制御・組織修復・腫瘍免疫といった多様な機能を担う“免疫の司令塔”です。
単なる貪食細胞ではなく、環境応答性に富んだ多機能細胞として、免疫学・がん学・再生医学のあらゆる分野で重要な研究対象となっています。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*