【免疫細胞シリーズ④】樹状細胞:獲得免疫の起点となる抗原提示細胞

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はじめに:樹状細胞とは

樹状細胞(dendritic cell, DC)は、枝のように突起を伸ばす形態から名付けられた免疫細胞で、獲得免疫の起点となる抗原提示細胞(APC)です。
自然免疫の一員として異物を認識・取り込み、その情報をT細胞へ提示することで、抗原特異的な免疫応答を開始します。


樹状細胞の発見と意義

1973年、カナダのラルフ・スタインマン(Ralph Steinman)によって発見され、その後、彼はこの業績により2011年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
それまで「マクロファージが主な抗原提示細胞」と考えられていましたが、樹状細胞の発見により、免疫応答の開始に特化した細胞が存在することが明らかになりました。


樹状細胞の起源と分化

樹状細胞は骨髄の造血幹細胞に由来し、血液中を循環して末梢組織に移動します。成熟段階に応じて大きく以下の2系統に分けられます。

分類主な特徴機能
cDC(conventional DC:古典的樹状細胞)抗原提示に特化T細胞活性化、サイトカイン産生
pDC(plasmacytoid DC:形質細胞様樹状細胞)ウイルス感染感知に特化I型インターフェロン産生

さらに、cDCは2つのサブセットに分かれます:

  • cDC1:クロスプレゼンテーション(外来抗原をMHCクラスI経路で提示)を行い、CD8⁺T細胞を活性化。
  • cDC2:抗原をMHCクラスII経路で提示し、CD4⁺T細胞を活性化。

樹状細胞の成熟と活性化

樹状細胞は常に周囲の環境を「監視」しています。未熟状態では高い貪食能を持ち、異物を取り込みます。
しかし、パターン認識受容体(PRR)を介して病原体関連分子(PAMPs)を認識すると、樹状細胞は成熟化します。

成熟樹状細胞では:

  • 抗原提示分子(MHCクラスI・II)の発現増強
  • 共刺激分子(CD80、CD86、CD40など)の発現上昇
  • サイトカイン産生(IL-12、IL-6など)
  • リンパ節への移動

これにより、T細胞を効率的に活性化する能力を獲得します。


樹状細胞の主な機能

1. 抗原提示

樹状細胞はMHC分子を介して抗原ペプチドをT細胞へ提示し、T細胞の初期活性化を担います。

  • MHCクラスI経路:内在性抗原(ウイルス感染細胞など)をCD8⁺T細胞へ提示
  • MHCクラスII経路:外来性抗原をCD4⁺T細胞へ提示
  • クロスプレゼンテーション:外来抗原をMHCクラスI経路に載せる特殊な機構

2. 免疫応答の方向づけ

樹状細胞は分泌するサイトカインによって、T細胞分化の方向(Th1、Th2、Th17、Tregなど)を決定します。
例:

  • IL-12 → Th1誘導(細胞性免疫)
  • IL-10 → Treg誘導(免疫抑制)

3. 免疫寛容の維持

自己抗原を提示しつつもT細胞を活性化しない「トレランス誘導型DC」は、自己免疫疾患の防止に寄与します。


樹状細胞と疾患の関係

1. 感染症

ウイルス感染時、pDCがI型インターフェロンを大量に分泌して抗ウイルス状態を誘導します。
cDCは抗原提示を通じて、ウイルス特異的T細胞を活性化します。

2. 自己免疫疾患

樹状細胞が誤って自己抗原を提示すると、自己反応性T細胞が活性化され、自己免疫疾患(多発性硬化症、1型糖尿病など)が発症します。

3. がん

腫瘍微小環境では、樹状細胞の成熟が阻害されることが多く、抗原提示能の低下が免疫逃避の一因になります。
これを逆手に取ったDCワクチン療法(腫瘍抗原で樹状細胞を活性化して体内へ戻す治療)が臨床応用されています。


樹状細胞研究の最前線

  • シングルセル解析により、組織常在型DCの多様性が明らかに。
  • クロスプレゼンテーション機構の分子基盤が解明されつつあります。
  • 免疫療法応用:DCを用いたがんワクチン、免疫寛容誘導療法、ナノ粒子を使ったDC標的ドラッグデリバリーなどが進展中です。

まとめ

樹状細胞は「免疫の翻訳者」と呼ばれるほど重要な役割を持ちます。
病原体の情報を正確にT細胞へ伝えることで、自然免疫と獲得免疫の橋渡しを担い、免疫応答全体を方向づける存在です。
がん、感染症、自己免疫など多くの疾患で樹状細胞を標的とした治療法が研究されており、今後も免疫学の中心的テーマであり続けるでしょう。

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