🧬免疫細胞シリーズ 第5回:NK細胞 ― 腫瘍・ウイルス感染に対する即時防御

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1. NK細胞とは何か

NK細胞(Natural Killer cell)はリンパ系細胞に属しますが、抗原特異性を持たない自然免疫系の細胞です。つまり、感染や腫瘍を「事前の学習なしに」感知し、即座に排除する即時防御機構を担います。

名前の“ナチュラルキラー”は、「生まれつき殺す能力を持つ」ことに由来します。


2. NK細胞の基本的な特徴

  • 発生部位:骨髄で分化し、末梢血・脾臓・肝臓などに存在
  • 形態:大型顆粒リンパ球(Large Granular Lymphocyte; LGL)
  • 主要マーカー:ヒトではCD16(FcγRIII)、CD56(NCAM)
  • MHC依存性:T細胞とは異なり、MHCによる抗原提示を必要としない

3. 「自己」か「非自己」かを見分ける仕組み

NK細胞は「Missing-self 認識」という独自の原理で異常細胞を見分けます。

正常な細胞は表面にMHCクラスI分子を発現していますが、ウイルス感染や腫瘍化した細胞はMHCクラスIの発現が低下します。
NK細胞は以下の受容体のバランスで攻撃の可否を判断します。

受容体のタイプ代表例機能
抑制性受容体KIR, NKG2AMHCクラスIを認識し「攻撃中止」信号を送る
活性化受容体NKG2D, NKp30, NKp46ストレス誘導分子を認識し「攻撃開始」信号を送る

この「抑制と活性のバランス制御」により、NK細胞は自己組織を誤って攻撃しないように働きます。


4. NK細胞の攻撃メカニズム

NK細胞は標的細胞を見つけると、以下の二つの主要経路で排除します。

  1. パーフォリン・グランザイム経路
    • パーフォリンが標的細胞膜に穴をあけ、グランザイムが細胞内へ侵入しアポトーシスを誘導。
  2. Fas/FasL経路
    • NK細胞表面のFasLが標的細胞のFas受容体と結合し、細胞死を誘導。

また、CD16(Fc受容体)を介して抗体で覆われた標的を認識し、**抗体依存性細胞傷害(ADCC)**を起こすこともあります。


5. サイトカインとの相互作用

NK細胞の活性は、他の免疫細胞からのサイトカインによって調節されます。

サイトカインNK細胞への作用
IL-12樹状細胞やマクロファージから分泌され、NK細胞のIFN-γ産生を促進
IL-15NK細胞の分化・生存・増殖を維持
IL-2活性化T細胞から分泌され、NK細胞の細胞傷害能を高める

このように、NK細胞は自然免疫と獲得免疫の橋渡し的な存在でもあります。


6. がん免疫におけるNK細胞の役割

NK細胞は腫瘍の**免疫監視機構(immune surveillance)**を担います。初期の腫瘍細胞を早期に排除する一方、腫瘍が進行すると、NK細胞の機能が低下(“NK cell exhaustion”)することが知られています。

  • がん免疫療法との関連
    • IL-15誘導療法:NK細胞を活性化するサイトカイン治療
    • CAR-NK療法:CAR-T療法の安全性を改良した新技術
    • チェックポイント阻害:T細胞だけでなくNK細胞にもPD-1/PD-L1経路が存在

7. NK細胞とウイルス感染

インフルエンザウイルスやヘルペスウイルス感染時、NK細胞は感染初期から強力に働きます。ウイルス感染細胞はMHCクラスIを下げるため、NK細胞が選択的に認識・排除します。
また、NK細胞由来のIFN-γがマクロファージや樹状細胞を活性化し、全身的な抗ウイルス応答を強化します。


8. まとめ

NK細胞は「即応型の殺し屋」として自然免疫の第一線を守る存在です。
感染・腫瘍の初期段階で迅速に異常細胞を排除し、同時に獲得免疫の起動にも関与します。その柔軟で強力な機能は、今後の免疫療法開発においても注目されています。


次回予告

次回は「第6回:T細胞 ― 免疫応答の指揮官と記憶の担い手」をテーマに、ヘルパーT、キラーT、制御性T細胞など、免疫応答の中心的役割を持つT細胞を詳しく解説します。

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