🧬免疫細胞シリーズ 第6回:T細胞 ― 免疫応答の指揮官と記憶の担い手

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1. T細胞とは何か

T細胞(T lymphocyte)は、胸腺(Thymus)で成熟するリンパ球であり、獲得免疫系の中心的な役割を担います。T細胞は特定の抗原を認識し、感染やがんなど「非自己」を正確に排除します。

表面には**T細胞受容体(TCR)**を持ち、抗原提示細胞(APC)によって提示された抗原ペプチドをMHC分子を介して認識します。


2. T細胞の主な種類と役割

種類表面マーカー主な機能
ヘルパーT細胞(CD4⁺)CD4サイトカインを放出し、他の免疫細胞を活性化。免疫全体の指揮を執る。
キラーT細胞(CD8⁺)CD8ウイルス感染細胞や腫瘍細胞を直接殺傷。細胞傷害性T細胞(CTL)とも呼ばれる。
制御性T細胞(Treg)CD4⁺, Foxp3免疫反応を抑制し、自己免疫の防止と免疫バランスの維持を行う。
記憶T細胞CD4⁺またはCD8⁺過去の感染を記憶し、再感染時に素早く応答。ワクチン効果の基盤。

3. 胸腺での教育 ― 「自己・非自己」を学ぶ

T細胞は骨髄で前駆細胞として生まれ、胸腺で「選抜教育」を受けます。

  • 正の選択(positive selection):自己MHCを認識できるT細胞だけを生存させる。
  • 負の選択(negative selection):自己抗原を強く認識するT細胞を除去し、自己免疫を防ぐ。

この厳格な選抜を経て、「自己を攻撃しないが、異物には反応する」T細胞が形成されます。


4. T細胞の活性化と分化のステップ

  1. 抗原提示:樹状細胞などがMHC分子に抗原ペプチドを載せ、T細胞に提示。
  2. 共刺激シグナル:T細胞上のCD28が、樹状細胞のB7分子と結合して完全活性化。
  3. サイトカイン刺激:IL-2などによって自己増殖・分化が誘導。

この3段階を経て、T細胞は「働く細胞」へと分化します。


5. ヘルパーT細胞(CD4⁺)の多様なサブセット

活性化されたヘルパーT細胞は、周囲のサイトカイン環境に応じて多様なサブタイプへ分化します。

サブセット誘導因子主な機能
Th1IL-12, IFN-γ細胞性免疫を促進。マクロファージやキラーT細胞を活性化(ウイルス・細菌防御)。
Th2IL-4B細胞を活性化し、IgE抗体を誘導(寄生虫防御・アレルギー反応)。
Th17IL-6, TGF-β炎症反応や真菌感染防御を担う。自己免疫にも関与。
Tfh(濾胞性ヘルパーT細胞)IL-21リンパ節でB細胞を支援し、高親和性抗体産生を誘導。
TregTGF-β, IL-2免疫抑制と免疫寛容を維持。過剰反応を防ぐ。

6. キラーT細胞(CD8⁺)の標的攻撃メカニズム

CD8⁺キラーT細胞は、感染細胞や腫瘍細胞のMHCクラスI分子上の抗原を認識して攻撃します。

主な殺傷メカニズムは以下の2つです。

  • パーフォリン・グランザイム経路:細胞膜に穴をあけ、アポトーシスを誘導。
  • Fas/FasL経路:標的細胞に“死のスイッチ”を入れる。

この精密な細胞死誘導は、免疫療法(CAR-Tやチェックポイント阻害薬)にも応用されています。


7. 制御性T細胞(Treg)による免疫ブレーキ

TregはFoxp3という転写因子を持ち、免疫反応の「ブレーキ」として働きます。

  • 過剰な炎症を抑制し、自己免疫疾患を防止。
  • 腫瘍免疫では、がん細胞の免疫逃避に関与することも。

免疫治療では、このTregのバランス制御が新たな焦点となっています。


8. 免疫記憶の形成

感染やワクチン後に生じる記憶T細胞は、再感染時に素早く強い免疫応答を誘導します。

種類居場所特徴
中心記憶T細胞(T_CM)リンパ節増殖能力が高く、長期に維持される。
エフェクタ記憶T細胞(T_EM)末梢組織即座に防御反応を起こす。
組織常在記憶T細胞(T_RM)皮膚・粘膜など局所で持続的に防御を担う。

9. T細胞の異常と疾患

T細胞機能の破綻は、さまざまな免疫関連疾患の原因となります。

  • 過剰活性化:自己免疫疾患(多発性硬化症、関節リウマチなど)
  • 機能低下:HIV感染などによる免疫不全
  • 抑制逃避:がん細胞がPD-L1などを利用して免疫回避

10. まとめ

T細胞は、免疫応答の指揮官・実行者・記憶の担い手という三重の役割を果たす細胞です。
その精密な制御機構があるからこそ、私たちは感染やがんに対して的確な防御を行いながら、自己を傷つけずに生きることができます。


次回予告

次回は「第7回:B細胞 ― 抗体を生み出す免疫の工房」。
抗体産生や免疫記憶の形成など、体液性免疫の中核を担うB細胞の働きをわかりやすく解説します。

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