■ B細胞とは ― 液性免疫の主役
B細胞(B lymphocyte)は液性免疫を担うリンパ球であり、主な役割は「抗体(免疫グロブリン)」を産生することです。抗体は病原体や毒素に結合し、中和・オプソニン化・補体活性化を通して体を防御します。
B細胞は骨髄(Bone marrow)で分化を始め、これが「B」の由来です。
■ B細胞の発生と分化
B細胞は骨髄内で前駆細胞から成熟B細胞へと発達します。この過程で**免疫グロブリン遺伝子の再構成(V(D)J再構成)**が起こり、それぞれが異なる抗原特異性をもつB細胞が生成されます。
成熟したB細胞は末梢リンパ組織(リンパ節・脾臓など)へ移動し、抗原刺激を待ちます。
■ 抗原による活性化とヘルパーT細胞の協力
抗原が体内に侵入すると、B細胞は自身の表面にあるB細胞受容体(BCR)を介して抗原を認識します。
一部の抗原(例:多糖類など)はT細胞の助けなしにB細胞を活性化できますが、ほとんどの抗原ではヘルパーT細胞(特にTfh細胞)との協調が必要です。
抗原提示を受けたヘルパーT細胞がサイトカイン(IL-4, IL-21など)を放出することで、B細胞は活性化し、増殖と分化を開始します。
■ 胚中心反応と抗体の洗練
活性化したB細胞はリンパ節内の「胚中心(germinal center)」に集まり、ここで以下の2つの重要な過程を経ます。
- 体細胞超変異(somatic hypermutation)
免疫グロブリン遺伝子にランダムな変異を導入し、抗体の親和性を高める。 - クラススイッチ組換え(class switch recombination)
IgM抗体からIgG、IgA、IgEなどへと抗体クラスを切り替え、異なる防御機能を獲得する。
この結果、より効果的な抗体を産生できる「形質細胞」と「記憶B細胞」が誕生します。
■ 形質細胞と記憶B細胞 ― 即時防御と長期免疫
- 形質細胞(plasma cell)
大量の抗体を分泌する“抗体工場”です。感染防御の最前線を担いますが、多くは短寿命です。 - 記憶B細胞(memory B cell)
一度出会った抗原を記憶し、再感染時には迅速かつ強力な抗体応答を引き起こします。この仕組みがワクチン効果の基盤となります。
■ 抗体の機能と種類
抗体は主に5種類(IgM、IgG、IgA、IgE、IgD)が存在し、それぞれ異なる役割を担います。
- IgM:初期感染時に最初に産生される
- IgG:血中に最も多く、長期免疫に関与
- IgA:粘膜免疫(唾液・腸管など)を担当
- IgE:アレルギー反応や寄生虫防御に関与
- IgD:主にB細胞表面に存在し、抗原認識に関与
■ B細胞と疾患
B細胞の異常はさまざまな疾患を引き起こします。
- 自己免疫疾患(例:全身性エリテマトーデス)では、自己抗体を産生
- B細胞リンパ腫では、B細胞が腫瘍化
- 免疫不全症では、抗体産生の欠損により感染症に易感染
また、がん免疫療法においても、B細胞の抗体産生機構はモノクローナル抗体薬の開発に応用されています。
■ まとめ
B細胞は、体内で抗体を作り出す**「免疫の工房」**として機能し、短期的な感染防御と長期的な免疫記憶の両方を担います。T細胞との協働によって精密に制御されるB細胞応答は、免疫系の知性とも呼べる仕組みです。
次回(第8回)はシリーズ最終回として、**「免疫細胞のネットワーク ― サイトカインと免疫制御の全体像」**を取り上げます。