■ ウイルス感染の流れ
ウイルス感染は、単に「侵入」するだけでなく、複数の段階を経て成立します。一般的には以下のような流れで進行します。
- 宿主への侵入(感染経路)
ウイルスは特定の経路から体内に入ります。代表的な経路は次の通りです。- 呼吸器感染(例:インフルエンザ、SARS-CoV-2)
- 消化器感染(例:ノロウイルス、ロタウイルス)
- 経皮感染(例:狂犬病、デング熱)
- 性的・母子感染(例:HIV、B型肝炎ウイルス)
- 細胞への付着と侵入
ウイルスは宿主細胞表面の特定の受容体を認識して吸着します。
例:HIVはCD4とCCR5/CXCR4を介してT細胞に侵入。
侵入後、エンドサイトーシスや膜融合を経てゲノムが細胞内へ放出されます。 - 初期複製と局所感染
感染初期には局所の細胞でウイルスが複製され、感染が拡大します。この段階で宿主の自然免疫応答が始まります。 - 全身への拡散(ウイルス血症)
一部のウイルスは血流やリンパ流を介して全身に広がります(例:麻疹、風疹)。
一方、局所に留まるウイルスもあります(例:パピローマウイルス)。
■ 宿主の初期応答
ウイルス感染に対して宿主は迅速に反応します。これが自然免疫の段階です。
- 物理的バリア: 皮膚、粘膜、分泌液などが最初の防御線。
- パターン認識受容体(PRR): TLRやRIG-IがウイルスRNA/DNAを検知。
- インターフェロン(IFN)産生: 感染細胞がIFNを分泌し、周囲の細胞を抗ウイルス状態にします。
- NK細胞の活性化: 感染細胞や異常細胞を除去します。
■ 感染の拡大と制御
ウイルスが宿主応答を突破すると、感染は次のように進展します。
- 急性感染: 一過性の感染(例:インフルエンザ、ノロウイルス)
- 慢性感染: 長期間持続(例:B型肝炎ウイルス、HIV)
- 潜伏感染: 一時的に休眠し再活性化(例:ヘルペスウイルス)
宿主は免疫応答によって感染を抑制しますが、免疫が不十分な場合やウイルスの回避機構が強力な場合、感染が慢性化します。
■ ウイルス病原性と宿主因子
ウイルスの病原性(どの程度病気を引き起こすか)は、ウイルスの性質だけでなく宿主の状態にも左右されます。
- ウイルス因子: 増殖速度、毒素タンパク、免疫回避能など
- 宿主因子: 年齢、免疫状態、既往感染、遺伝的素因
同じウイルスでも、乳幼児や高齢者、免疫不全患者では重症化しやすくなります。
■ 潜伏期と発症
感染から症状が現れるまでの期間を潜伏期と呼びます。
潜伏期にはウイルスが体内で増殖し、免疫系が活性化し始めます。
症状(発熱・炎症・倦怠感など)は、ウイルスそのものによる細胞障害と、宿主免疫応答による炎症反応の双方によって生じます。
■ 感染成立のまとめ
ウイルス感染の成立は、単にウイルスの侵入だけでなく、
- 宿主細胞との相互作用
- 自然免疫の活性化
- ウイルスの免疫回避
といった多段階のプロセスから成り立ちます。
ウイルスが感染に成功するかどうかは、ウイルス側の戦略と宿主側の防御力の均衡により決まります。