【ウイルス学シリーズ 第8回】新興ウイルス感染症と公衆衛生

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■ 新興感染症とは?

**新興ウイルス感染症(Emerging Infectious Diseases)**とは、

  • 新しく発見された病原体による感染症
  • 以前は存在しなかったが、新たにヒト社会に侵入した感染症
    を指します。

さらに、過去に流行したが再び増加している感染症は「再興感染症」と呼ばれます(例:麻疹、デング熱)。


■ 新興ウイルスの代表例

ウイルス主な疾患発生年・地域特徴
SARS-CoVSARS2002年 中国コロナウイルス初の重症肺炎
MERS-CoVMERS2012年 サウジアラビアヒトーヒト感染弱だが致死率高い
SARS-CoV-2COVID-192019年 中国世界的パンデミック
エボラウイルスエボラ出血熱1976年 アフリカ高致死率(50%以上)
ニパウイルス脳炎・呼吸不全マレーシア・バングラデシュコウモリ由来の人獣共通感染症
ジカウイルスジカ熱南米・中南米小頭症との関連で注目

■ なぜ新興ウイルスが増えているのか?

現代社会で新興感染症が増える理由は、以下のような環境・社会・生物学的要因です。

  • 森林伐採・都市化:野生動物との接触増加(例:コウモリとヒトの距離が近づく)
  • グローバル化/航空機移動:数時間で世界規模に拡散可能
  • 家畜産業の拡大:動物由来ウイルスの適応進化
  • 温暖化・蚊の生息域拡大:デング熱、ジカウイルスの北上
  • 免疫低下・高齢化社会:重症化リスクの上昇

■ ウイルス感染拡大のメカニズム:R₀(基本再生産数)

感染症の広がりやすさは**基本再生産数(R₀)**で表されます。

  • R₀ > 1:感染拡大
  • R₀ < 1:終息へ向かう

例:

感染症R₀の目安
季節性インフルエンザ1.3
SARS2〜3
COVID-19 初期株2〜3
COVID-19 オミクロン株8〜10
麻疹12〜18(最も感染力が強い)

■ 公衆衛生的アプローチの基本

  1. 早期探知(サーベイランス)
    • WHO・国立感染症研究所による感染症監視
    • PCR・遺伝子解析によるウイルス検出
    • 臨床情報・感染者数報告システム
  2. 封じ込め(Containment)
    • 隔離(isolation)・検疫(quarantine)
    • 濃厚接触者追跡(Contact Tracing)
    • 渡航制限・入国検査
  3. 感染拡大防止(Mitigation)
    • マスク・手洗い・換気
    • ワクチン接種・抗ウイルス薬
    • 学校閉鎖・リモートワーク
  4. 医療提供体制の維持
    • 病床確保・人工呼吸器・ECMO
    • 医療従事者の感染防護(PPE)

■ 「ワンヘルス(One Health)」の概念とは?

新興感染症の多くが**動物 → ヒトへ伝播(人獣共通感染症)**していることから、
ヒト・動物・環境の健康を一体として捉える国際的枠組みが「One Health」です。

  • 獣医・医師・環境科学者が連携
  • 野生動物のウイルス監視
  • 畜産・ペット・野生生物の感染管理

■ 新興感染症と今後の課題

課題具体例
ワクチン開発の迅速化mRNAワクチン技術の進化
偽情報・ワクチン忌避SNSによる情報拡散
低所得国への医療格差ワクチン供給・医療体制の不足
新変異株への対応COVID-19変異株の出現
動物由来感染の監視コウモリ・家畜へのモニタリング

■ まとめ

  • 新興感染症は環境・社会・医学の境界領域の問題
  • COVID-19はその典型例であり、公衆衛生の重要性を世界に再確認させました。
  • 今後は感染症の予知・予防・迅速対応、国際連携、ワンヘルス視点が鍵となります。
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